1859text-4 季節もの・お題

□Melty Kiss
3ページ/7ページ



悩みながら雲雀が瞼を伏せると、きし、とドアが遠慮がちに開かれる音がした。
草壁はそういう開け方をしない。
こそこそした動作を雲雀が嫌うと知っているはずだからだ。

雲雀は視界を閉ざしたまま、侵入者の動作を捉えるように、感覚を研ぎ澄ませる。

「……ヒバ、リ……? 寝てんのか、ったく」

溜め息のような、ひそめたハスキーボイス。
……獄寺隼人だ。

雲雀はそのまま寝たフリを決め込んだ。

「……ヒバリ……」

困ったような甘い声。
逡巡するような間が、雲雀の瞼をむずむずさせた。

「……………………好き、だ……」

吐息が近い。

間近で脈打つ獄寺の体温がじわじわと熱を伝えて、雲雀の心拍数まで上げていく。
息苦しさが募って、雲雀はとうとう閉じていた瞼を薄く開いた。

目の前、数センチの距離で悩ましげに寄せられた、繊細な眉根と彫りの深い目元。

伏せた眼差し、銀色の睫毛の奥に透ける、水を張ったような翠の瞳、それが自分の口を突いて滑り出たことばに揺らいでいる。
震える白い指先がくちびるを押さえていた。

恋、なんて雲雀には理解が出来ない。

しかし目の前の白皙が欲している物は、そうだ。
きっと飴でも菓子でもないのだろう。

目の前にあった獄寺の顔を見上げて、白く整ったおとがいを掬い上げる。
そのままくちづけ、舌で獄寺の柔らかいくちびるを捲って、赤い飴玉を押し込んだ。

「…………?!」

キス、続いて味覚に訴える甘さに驚き、獄寺が反射的に頭を引いた。

「お前っ、いつから起きて……、っ」

「さあね」

赤く色づいた獄寺の下睫毛を親指で辿り、頬を撫でて再びくちづけた。

「ん、んっ……!」

引き寄せた獄寺の身体があっという間に熱を帯びる。

甘酸っぱい味のする飴と獄寺の舌を交互に追いかけながら、獄寺の背中に腕を回して、細身の身体を抱き込んだ。
息苦しさに潤んだ翡翠の瞳が見開かれる。

「……、ぁ、は……っ、ヒバリ……?!」

「そんな目して……犯されたいの?」

角度を変えてくちづけながら、合間に雲雀は囁いた。

「ねえ、ホワイトデーのお返しは何がいい?」

耳の縁に沿って入り組む起伏をくちびるで辿ると、びくりと過剰なくらいに薄い肩が跳ね上がる。

「いろいろ考えたけど……僕にはよく解らなかった」

赤らんだ耳朶を擽るように吐息を吹き込む。
獄寺隼人。
君はとてもきれいなのに、どうしてだろう。

自分の手でぐちゃぐちゃに蹂躙してやりたい、嗜虐的な衝動と、包み込んで優しく守ってやりたいような庇護欲の間。
微妙な心の置き所に困惑しながら、雲雀は獄寺の髪をそっと梳いた。

疼く感情が何なのかよく解らない。
だけど獄寺の身体を手放すことすら出来ず、雲雀は腕の中の身体を欲求に任せて掻き抱いた。

ひたすら真っ赤に染まっていく、獄寺の首筋にそっと舌を這わせる。
キメの細かい肌が戦慄いて、薄く開いたくちびるから掠れた吐息が、切れ切れにことばを成さない音を零した。

「あ……、く……っ、んう」

舌先で肌に触れている、ただそれだけの事なのに、獄寺の息が上がって火照っていく。

「……ヒバリ……っ」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ