DreAm
□何も知らないまま
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「……何の用ぜよ」
「べっつに?」
学校の屋上にいつも、その女は居た。別に会話をする訳でもなくただ、そこに居た。
大抵の奴がビビって俺に近付きもしないっていうのに、そいつはいつも俺の近くに居た。
だからと言って、仲が良い筈はないしあいつも何も言っては来なかった。
「お前」
「ん」
「怖くねぇのか」
「何で?」
何で、って。
「だってクラスメイトでしょ」
「…………」
「何がどう怖いっていうの」
周りを見てなお、本気でそう言ってるのだとしたらこいつはとんでもない気違いだ。
屋上のコンクリートの上には何人もの死体が転がっていて、その上その一人一人が目も当てられない程酷い有様だというのに。
こんな状況で、こいつは何で平然と立ってるんだ。
「なあ」
「何?」
「俺が人間に見えるか?」
「……ううん」
そりゃ、そうだ。直に俺の首が飛ぶ光景を見てるんだから。
「…だったら何で逃げない?今にもお前、食い殺されても不思議じゃ無いぜよ」
「でもそうしないんでしょ?」
「……まあな」
本当に、変わった女だ。
「あのさ、私ね」
「……何ぜよ」
「もうすぐ転校しちゃうんだけどね」
「…………」
「あなたと仲良くしたかったな」
言葉が出なかった。
仲良くしたい、って、正気の人間が言う事かよ。妖怪の俺と仲良くなんか、出来る訳無いのに。
俺は初めて、振り向いてそいつを見た。
昇降口へ歩く後ろ姿だけが目に入った。
「お前、狂ってる」
ぼそっと呟くと、そいつは振り向かないまま答えた。
「そうかも」
何も知らないまま
顔も分からなかった彼女が、一番身近に居たんだ。