創作
□サークルコミュニティ
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サークルコミュニティのメンバーは、大学生というわけでもない。
ネットの掲示板から発足したオフ会に近いものだ。あの頃から未成年は、参加者にいなかった。
洋子は森林が入っていたからという単純な理由で入っただけ。もう五年も経つ。参加者も三十路に近い、いい年になっているだろう。
「お。やっと畑を抜けたな?」
森林は独り言をこぼしサングラスをジーパンのポケットへ入れる。
黄色い情景がなくなっていく。
畑をさんざん通りすぎた後、ちらほらと家を見ることができた。
だが家のすべてがカーテンが閉まっているかシャッターが降りているためにやけに閉塞的な町だ。
「なんだ。随分と暗い町だな」
「目的地は、ここじゃないんですかね。もう少し奥ですかね?」
洋子は辺りを見渡すが、ワゴン車のナビは、未だに目的地周辺だとは告げていない。森林はナビは付けていたらしいが、ほぼ道なりだったためほとんど使えなかった。
――目的地周辺です
目的地周辺についたらしい。いきなりナビが、音声でそう伝える。
洋子はナビの、いや機械じみた音声はあまり好きではなかった。
彼女には都市伝説を鵜呑みにする傾向があるらしい。さんざんメンバーや森林にもいじられている。
テレビでも夏場には都市伝説や怖い話、実話を短いドラマにして紹介している番組をやっている。
最近では冬場にすら怖い話が蔓延している。彼女は怖がりなのだ。
怖がりではあるが、怖いもの見たささえも兼ね備えているらしい。
青い屋根の家にたどり着いた。他の家よりもやけに小綺麗だったために余計に不気味にうつった。それに家も周りよりも大きい家だ。
「そういえば牧野、ここは誰の家なんだ。お前は知っているか?」
「いや知らないです。わたしも森林さんに質問するつもりでした」
森林の問いに彼女は首を横に振る。どうやら森林も知らないらしい。コミュニティの管理人は誰の家なのか知っているのだろうか。
ワゴン車から降りると、青い屋根の家の玄関が開く。そこから出てきたのは、他のメンバーだった。
「森林さん、牧野さん。待ってたわよ!もう他の皆さんは揃ってるからね。ささ!中へ中へ!!」
メンバーでも最年長の女性が笑顔を振り撒いた。五年前よりもやや老けたが、笑顔の可愛さは変わらない。名前は八重だったはずだ。
名字は、虹林だった。変わった名字だったためすぐに思い出した。
彼女が、この6人ほどのサークルコミュニティの管理人である。
「おや。虹林さん久しぶりだね」
「本当に久しぶりね森林さん!」
話を咲かせる2人を置いて洋子は中へと入る。実家のような香りが体を包んだ。懐かしい香りだ。
思わず実家に帰ったような錯覚を覚えてしまう。決していい香りではないはずだが、好きだった。
靴を脱ぎきれいに揃え、廊下を進む。進む度に床が悲鳴をあげる。床が抜けるんじゃなかろうか。
この軋む床が、より一層実家に帰ったような錯覚を助長させた。
扉のガラスは曇りガラスだが、人影が集まっているのが見える。開けると一斉に人々がこちらを見る。懐かしい面々が揃っていた。
わずかに彼女の顔も緩む。
男性が洋子に近寄る。
「おお、牧野ちゃんじゃないか。久しぶりだな!元気だったか?」
「雨宮さん。お久しぶりです」
雨宮勘太郎が洋子に声をかけてきた。かなりビビリな青年だったために、メンバーには名前負けしているとからかわれていた男性だ。
太い眉毛が凛々しく、立派な体格だ。昔よりも厳つくなっている。
男性メンバーは2人しかいなかったため、今は彼だけになった。
「あら牧野さんじゃないの。あなた森林さんと一緒に来たのね?」
「……あ、そうなんですよ。……お久しぶりです、五十嵐さん!」
洋子は記憶を手繰り寄せながら名前を脳内から引っ張り出す。彼女は五十嵐美千留。この人も森林と似て、変わっている女性だった。
「…………牧野さん、久しぶり」
「おわっ!!……あ。雷電さん……。お、お久しぶり、です!」
隈がある女性だ。名前は雷電喜代子。五年前も酷かったが以前よりも隈が濃くなっているようだ。
この人はいきなり後ろにいることがあるのでいちいち驚かされる。
森林と虹林がやっと長い会話を終えたのか玄関先から戻ってきた。
「おー。懐かしい面子だなあ」
「ああ、森林兄貴じゃないですか。お久しぶりです、森林兄貴!」
「こら、兄貴じゃなくて姉貴だろうが。このビビリ太郎ちゃんが」
「…………ぷ」
「あ、雷電さんが噴き出したわ。雨宮くんはまだビビリなのね?」
「ビビリじゃないですよ五十嵐さん。牧野ちゃんまで笑うなよ!」
五年前と、少しも変わらない。ついわたしは笑ってしまった。
五年前とは、ただ少しも、変わらないのだ。例え一人いなくても。
いや、メンバーは思い出したくないだけなのだ。わたしも含めて。
今日は彼の命日だということを。彼はわたし達を見てどう思っているだろうか。わかるはずもない。
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