創作

□サークルコミュニティ
3ページ/4ページ





サークルコミュニティのメンバーは、大学生というわけでもない。

ネットの掲示板から発足したオフ会に近いものだ。あの頃から未成年は、参加者にいなかった。





洋子は森林が入っていたからという単純な理由で入っただけ。もう五年も経つ。参加者も三十路に近い、いい年になっているだろう。



「お。やっと畑を抜けたな?」



森林は独り言をこぼしサングラスをジーパンのポケットへ入れる。


黄色い情景がなくなっていく。

畑をさんざん通りすぎた後、ちらほらと家を見ることができた。

だが家のすべてがカーテンが閉まっているかシャッターが降りているためにやけに閉塞的な町だ。



「なんだ。随分と暗い町だな」



「目的地は、ここじゃないんですかね。もう少し奥ですかね?」



洋子は辺りを見渡すが、ワゴン車のナビは、未だに目的地周辺だとは告げていない。森林はナビは付けていたらしいが、ほぼ道なりだったためほとんど使えなかった。






――目的地周辺です





目的地周辺についたらしい。いきなりナビが、音声でそう伝える。


洋子はナビの、いや機械じみた音声はあまり好きではなかった。

彼女には都市伝説を鵜呑みにする傾向があるらしい。さんざんメンバーや森林にもいじられている。



テレビでも夏場には都市伝説や怖い話、実話を短いドラマにして紹介している番組をやっている。


最近では冬場にすら怖い話が蔓延している。彼女は怖がりなのだ。

怖がりではあるが、怖いもの見たささえも兼ね備えているらしい。





青い屋根の家にたどり着いた。他の家よりもやけに小綺麗だったために余計に不気味にうつった。それに家も周りよりも大きい家だ。




「そういえば牧野、ここは誰の家なんだ。お前は知っているか?」



「いや知らないです。わたしも森林さんに質問するつもりでした」




森林の問いに彼女は首を横に振る。どうやら森林も知らないらしい。コミュニティの管理人は誰の家なのか知っているのだろうか。



ワゴン車から降りると、青い屋根の家の玄関が開く。そこから出てきたのは、他のメンバーだった。




「森林さん、牧野さん。待ってたわよ!もう他の皆さんは揃ってるからね。ささ!中へ中へ!!」



メンバーでも最年長の女性が笑顔を振り撒いた。五年前よりもやや老けたが、笑顔の可愛さは変わらない。名前は八重だったはずだ。

名字は、虹林だった。変わった名字だったためすぐに思い出した。

彼女が、この6人ほどのサークルコミュニティの管理人である。




「おや。虹林さん久しぶりだね」



「本当に久しぶりね森林さん!」




話を咲かせる2人を置いて洋子は中へと入る。実家のような香りが体を包んだ。懐かしい香りだ。


思わず実家に帰ったような錯覚を覚えてしまう。決していい香りではないはずだが、好きだった。



靴を脱ぎきれいに揃え、廊下を進む。進む度に床が悲鳴をあげる。床が抜けるんじゃなかろうか。

この軋む床が、より一層実家に帰ったような錯覚を助長させた。



扉のガラスは曇りガラスだが、人影が集まっているのが見える。開けると一斉に人々がこちらを見る。懐かしい面々が揃っていた。
わずかに彼女の顔も緩む。

男性が洋子に近寄る。



「おお、牧野ちゃんじゃないか。久しぶりだな!元気だったか?」



「雨宮さん。お久しぶりです」



雨宮勘太郎が洋子に声をかけてきた。かなりビビリな青年だったために、メンバーには名前負けしているとからかわれていた男性だ。

太い眉毛が凛々しく、立派な体格だ。昔よりも厳つくなっている。

男性メンバーは2人しかいなかったため、今は彼だけになった。




「あら牧野さんじゃないの。あなた森林さんと一緒に来たのね?」



「……あ、そうなんですよ。……お久しぶりです、五十嵐さん!」



洋子は記憶を手繰り寄せながら名前を脳内から引っ張り出す。彼女は五十嵐美千留。この人も森林と似て、変わっている女性だった。




「…………牧野さん、久しぶり」




「おわっ!!……あ。雷電さん……。お、お久しぶり、です!」




隈がある女性だ。名前は雷電喜代子。五年前も酷かったが以前よりも隈が濃くなっているようだ。

この人はいきなり後ろにいることがあるのでいちいち驚かされる。




森林と虹林がやっと長い会話を終えたのか玄関先から戻ってきた。





「おー。懐かしい面子だなあ」



「ああ、森林兄貴じゃないですか。お久しぶりです、森林兄貴!」



「こら、兄貴じゃなくて姉貴だろうが。このビビリ太郎ちゃんが」



「…………ぷ」



「あ、雷電さんが噴き出したわ。雨宮くんはまだビビリなのね?」



「ビビリじゃないですよ五十嵐さん。牧野ちゃんまで笑うなよ!」




五年前と、少しも変わらない。ついわたしは笑ってしまった。


五年前とは、ただ少しも、変わらないのだ。例え一人いなくても。


いや、メンバーは思い出したくないだけなのだ。わたしも含めて。








今日は彼の命日だということを。彼はわたし達を見てどう思っているだろうか。わかるはずもない。








.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ