創作

□サークルコミュニティ
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ある真夏日。今日はやけに暑い。

だが夕方には冷え込むだとか、ゲリラ豪雨並の大雨が降るだとか。

はたまた、巨大な台風がくるだとか。テレビ局同士で天気予報の食い違いをされてしまったら困る。



いつもは持たない折り畳み式の傘を持ったり、はたまた自転車通学の学生はカッパを持っていく。





だが彼女は雨風を凌ぐ物を持ってはいなかった。愛用のおんぼろの自転車に跨ぎ、これまたぼろぼろの地図を籠に突っ込んでいる。

ショルダーバッグを肩にかけて。

地図を頼りに漕いでいく。




自転車を地道に漕いでいく。あまり慣れない道だ。ここまでゴツゴツとした道を通ったことはない。


ガタガタと揺れる度、お尻のあたりが痛む。最悪な道だ。車道並に広いが、道路とは呼びたくない。

彼女は、鈍く痛むお尻を我慢して不慣れな道を必死に漕いでいた。



ここまで彼女はすでに30分以上は漕いでいるが、ただただ真っ直ぐにこの最悪な道がのびている。

ここで彼女は不安になっていく。人間というのは、真っ直ぐに道がのびているとなぜか、どこかで曲がりたいと思ってしまうらしい。

だが、生憎曲がり角なんてものはこの道路と呼べない道にはなかった。彼女は、自転車を止めた。


自転車の籠に無造作に入れていた地図を広げて確認してみるが、間違っているわけではないようだ。





――本当に合っているのかしら。





と本音がちらつくが仕方がない。彼女の思いとは裏腹に、地図には真っ直ぐに道が書かれている。


30分どころか、家からの道を合わせると一時間は軽く越える。30分はこの不安になる一直線の道を通り始めてからの経過時間だ。


こんなに漕いでいると、お尻どころか下品な話になるが股まで痛くなってきた。もう漕ぎたくない。



何時間かかるかわからないが、痔になりたくはない。自転車から降りて手で押していくことにした。



だが、目的地が一向に見えない。

それどころかコンビニすらないとは、たまげた。道のサイドにはきれいに畑が並んでいるだけだ。

畑独特の嫌な臭いが、辺りに充満している。彼女は菜の花の臭いにも吐き気を催すほど弱いというのに、今日はとんだ厄日だった。



それに、車の通りすらなかった。この一本道の先には、本当に家があるのだろうかも不安になる。


彼女は踵を返して、自分の家に帰りたくなっていた。汗が頬を伝い、前髪が額に張り付いて気持ちが悪い。頭もクラクラとする。



酸欠になっている。


わたしも体力があるわけでもなし、一時間の自転車運動だけでもここまで疲労がたまるのだ。身体が、少しの休息を欲していた。



もう喉がカラカラで、上顎に乾燥した舌が張り付てくる。舌を上顎から一気に引き離すと、ベリッと剥がれるような感覚を覚えた。




自転車を手でゆっくりと押していたわたしは、後ろから聞こえるクラクションに苛立っている。車が通ったということには驚いたが。



――クラクションなんて鳴らして。ナンパ……いや、それはないか。……道を遮ってはいないのに。




思う前に、車に先を越され彼女の進路を遮られる。なんのマネだ。



「牧野じゃないか!久しいな。ここから目的地まで一時間はかかるだろうから、車に乗ってくれ!」



ボーイッシュな女性がワゴン車の運転席の窓から顔を見せている。


ああ、なんだ。クラクションを鳴らしたのは知人だったらしい。


ワゴン車だから、この自転車も乗せられるだろうか。わたしは一目散にその車の助手席に乗り込んだのだ。愛用の自転車も一緒に。







車でもこの道では、揺れて気分が悪くなる。自分の足を使わない点ではとても楽で便利だが、いかんせんこの乗り物は酔いやすい。


バスに乗るだけでもすぐに気分が悪くなる彼女にとっては、車という物は最高で最悪な乗り物だ。




牧野洋子は車に揺られていた。先ほどまで自転車を漕いでいたが、横で運転しているボーイッシュな女性、もりばやしに拾われた。

漢字では森と林だ。しんりんと呼び間違えたら、かなり怒られた。



森林が洋子を拾った理由は、双方の目的地が一致しているためだ。


灰皿がタバコで溢れ返っている。

この人に会うのは五年前以来だが、以前もタバコを吸ってはいたがわたしの記憶ではここまでヘビースモーカーではなかったのだが。



洋子は思ったが聞きはしない。森林とは確かに親しい間柄だったが、五年というブランクはでかい。


根掘り葉掘り森林の過去を再会してすぐに聞き出そうとするほど、彼女は馴れ馴れしくはなかった。




だが、あと一時間弱無言というのは、少し辛いものはある。眠るという考えもあるが、ガタガタと揺れる車の中では眠れそうにない。




「……牧野は五年経っても変わらんな。あの自転車も懐かしいよ」




沈黙を破ったのは、森林だった。思わず彼女の顔を見るが、いつの間にかけたのか、サングラスをかけていて表情がわからなかった。




……わたしは、変わらないな。どういう真意で言ったのだろうか。







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