描けなかった物語

□英雄の造り方
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スサノオは泣いていた。
一日中、泣いていた。

「スサノオさま……」

泣きたいのはこっちだ。
それでもオオトシは不満も言わず付き添う。

姉・アマテラスが治める高天原から追放されてしまったスサノオ。
見る者を魅了する恵まれた容姿。
年は20歳になる。
しかし、中身は幼子のままだ。

まだ14歳のオオトシにすがりつき、泣き続けている。

此処は葦原中津国。
人影も見えない、荒涼とした大地が広がっている。

「スサノオさま。雨が降りそうです」

「……」

「どこか、洞穴でも探して来ます」

「……」

スサノオは、オオトシの腕を掴む手に力を入れた。

破壊神と呼ばれるスサノオだ。
全力で掴まれたら、洒落にならない。

「わかりました!何処へも行きませんから」

オオトシのその言葉に安心したのか、スサノオは手の力を緩める。

オオトシは今後のことを考えていた。
この大きな子供を抱えて、どう生きて行けば良いのか。

やがて、大粒の雨が降り出した。
オオトシは濡れるに任せる。
スサノオの身体には、そっと布を掛けた。
風邪をひかれては困る。

一時間程、そうしていただろうか。
突然、雨が遮られた。

「……大丈夫?」

鈴のような声。
見上げれば、オオトシと同じくらいの年頃の愛らしい少女が、傘を差し掛けている。


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