H×Q

□ヒソカが緊張する話
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「好きなんだ。君が」
偽りきれない、初めての感覚。それはまるで心臓が口から出てきそうな、またもしくは体中から水分を絞りとられたようなそんな感じだった。

玉砕覚悟?そんな甘っちょろいもんじゃないよ、笑わせないでくれる。
ずっと、好きなんだ。閉じ込めて、鍵をして、逃げないように監視して。そうする事もできるけど、それは虚しいだけだと言う事は百も承知だったからそれだけはできなかった。
それでも抑えきれない思いは膨らんで、僕の筋力を持ってしても抱えきれなくなって、どこまでこの重荷を運んだらいいのかも分からずに倒れこんだのは最悪の場所。
君の目の前。
「…ハハ、何とか言ったらどう?君、今告白されてるんだよ」
妙に自分を冷静に見る事ができたのは日頃からの訓練のおかげか、はたまた極限の緊張状態で脳が緊張しているとすら気付いていないだけか。そんな事はどうでも良くて、ただクロロに告白して、クロロは何も言わなくて。
そら困るわな、なんて思いながら僕は何もいえずにいた。
明日、クロロは旅団に戻る。除念が成功したからだ。団員じゃない僕がクロロと会うのはコレが最後かもしれない。むしろおそらくコレが最後だ。たぶん旅団員が僕とクロロの接触を死守するだろうし。ほんのちょっと前は最後の言葉は戦闘開始の合図だったはずなのに、その未来はガラリと変わってこの様だ。
クロロは表情を変えず目線を落とした。そう、最初はこの伏せたまつげが綺麗だと思った。本を読んでいるときに見せるクロロの真剣で、でも楽しそうな表情がいつの間にか僕の心臓を締め付けた。
「クロロ」
「あぁ、すまない。ちょっとした可能性を考えていた」
声をかけるとそんな言葉が返ってきた。可能性?と僕が聞き返すとクロロは口元に手を当て何かを考えるそぶりを見せる。
「……あぁ、うん。やっぱりそうだな」
勝手に自己解決しないでくれる。なんて文句を言ってやりたいけれど、それさえもカラカラに渇いた喉は僕に許さなかった。どういう事だ、と目で訴えるとクロロは困ったようにため息をついた。
「今までソレは愚かな可能性だと思っていたが、今考えればソレが一番つじつまが合うという話だ」
彼がもったいぶっている間に僕はやっとの思い出唾を飲み込む事に成功した。まぁ、何とか話せそうかな。
「その可能性とやらがどうであれ、除念おめでとう。じゃあ、まぁバイバイ」
重荷は十分下ろした。だからまた僕は自分を騙して歩いていける。僕はもう彼を忘れたよ、なんて嘘を自分に付きながらまた変わらない日々を送るんだね。何と無く、寂しい気もするけど。今までに戻るだけだと思えば、どうにかならない訳でもないだろう。
僕は無理矢理会話を終わらせて、クロロの仮住まいを出て行く事にした。これ以上ココに居てはいけない、と思ったから。
「まて。お前は人の話を最後まで聞け」
あらら、クロロに言われたらおしまいだね。何て思いながら玄関へと進めていた足を止めた。あぁなんで止めちゃったんだよ僕は。
「いいか、そのまま振り返らずに聞けよ」
なんだろう。背後からナイフで滅多刺しとかにされるのかな。普通は気分悪いだろうね、男から告白されても。刺すくらいならいいけど、できるだけ殺さないで欲しいな。まぁクロロに殺されるならいいかな。なんて思いながら僕はそのままクロロの声を待った。
「いいか、一度だけ言うぞ」
前々から思っていたけどお前やっぱり気色悪いわ。殺されたくなかったら早く出て行け。何がきてももう心の準備はできている。さぁ、ドンと罵ってくれて構わないよ。
でも、最初に僕が感じたのはナイフが刺さる痛みでも、鼓膜を殴打する罵声でもなかった。
腹部に巻きついているまるで人の腕のような感覚と、背中に当たるまるで人の頭みたいな…え、何の冗談ですかクロロさん。僕そう言うおちょくり方を望んでいたわけじゃ、

「…俺も、好きなんだよ。お前が」

あぁ、あぁぁぁあ、もう。どうなっているだ、
脳みそが動かない、緊張しすぎて幻聴が聞こえた?でも、クロロは僕に抱きついてて、腕の力がだんだん強くなってきて、もう、何も考えられない。
目が熱くなる、泣いてるの?この僕が、泣けるんだ。知らなかったなぁ。こんなに心臓が早く動くのも初めてだ。クロロが後ろに居てよかった、こんな顔誰にも見せられないよ。顔を手で覆うと指先の冷たさが心地よかった。



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