*BL*
□1月25日 晴れ
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いつもは目が覚めてからも最低30分は布団から出ない先生が俺より先に起きていた。
「なんかあんの?」と聞いたら「なにもないよ」と笑ったのに、キッチンから漂ってくるのは甘ったるいケーキの香り。
先生は俺よりずっと料理が上手いけどやっぱり女みたいに上手くは無い。
だから野菜炒めの野菜は大きさがバラバラで火の通りが偏ってるもんだから、シナシナのキャベツと芯のあるニンジンが口の中で妙なハーモニーを醸し出す。
でも味付けがいい所為かやっぱり俺が作る飯より格段に美味い。
とにかく、メシはよく作る先生だけど付き合い始めてから一度だってケーキなんて焼いてくれたことはない。
クリスマスや俺の誕生日にはいつも、あの公園の向かいにある小さなケーキ屋で生クリームと苺のを買って来てくれる。
なんか記念日だったかな〜?なんて考えながら洗面所でガシガシ顔を洗い、手に当たったヒゲを鏡の中でぞろりと撫で「そろそろ剃んなきゃ」と思った時「メシ食う?」と顔を出した先生と目が合った。
「はい、これお前の。こっちは俺のね」
「イエー。うっまそう!」
プルプル震えるくらい半熟と、ちゃんと火が通ってる固めの目玉焼きが目の前に置かれた。
卵の固さだけじゃなくベーコン派の先生とソーセージ派の俺の皿は、言われなくてもどっちがどっちのなのか分かる。
「あ、今日牛乳買わなきゃな」
「えー?一昨日買ったじゃん」
「さっき使っちゃったんだよ」
「ふーん」
細長い指が紙パックをチャプチャプさせてから傾けたけれど、コップの半分も満たさずに止まった。
逆さまのパックから滴る白い液体越しに見る先生はちょっとエロい。
「・・・・・・」
「・・・あのさぁ、朝からヤラしい事考えないでくれる?」
「な、なんで分かるんだよ!?」
「・・・わかるよ、そりゃ」
コップを受け取るフリをしながら先生の指をさりげなく撫でてやると「あはは」なんて軽く笑って手を引っ込めた。
キッチンからコポコポと先生用のコーヒーが美味そうな音と香りを寄越す。
「早く食べな。お前は任務でしょ?」
「あ、やっべー。そうだった」
俺の皿の横にはフォークしかなくて、それでガシガシ切った卵焼きから出た黄身が白い皿に流れた。
何度出されてもナイフを使わない俺に先生が諦めてから、俺にはフォークしか出されなくなった。
向かい側にある皿の横にはちゃんとナイフとフォークが置かれていて、俺たちってほんと正反対だよなぁと呟いた俺に「本当、二度手間だよねぇ」と嬉しそうに笑う。
牛乳派の俺とコーヒー派の先生。俺ってばコーヒーなんて飲まねーのに淹れる腕だけピカイチ。
「いってきます!」
「はいはい、いってらっしゃい。怪我するんじゃないよ」
Cランクでするか!と思いながら、「何ソレ?ケンシンテキな妻みてぇ!」と頬が緩む。
角を曲がる前に振り返ったら、窓際で頬杖をついていた先生がにこりと笑って「早く行きな」と口を動かした。