*BL*

□The World
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「ま、確かにお前は顔も悪くないし…」
「お、認められた!」
「頭はちょっと悪いけど」
「ヒデェ」
「まあそこは持ち前の明るさでカバー出来てるっぽいから」
「だろ?」
「あとは…」
「おう」
「色気、だね」
「…」

ゾリッと質量の多い髪が腿をくすぐる。位置を変えた頭は何かを確かめる様にもぞもぞと動き続ける。

「…?何してんの?」
「や…先生を勃起させられたら名実共に俺が木ノ葉ナンバーワンかな〜?なんて」
「…。バカだねぇ。男には勃たないよ」
「そう?」
「そりゃそうでしょーよ」
「俺は余裕で勃つけどなー。あ、でも先生限定で!」
「げ。」
「げって何だよ!本当の事言ってるだけだろ」
「…」

本当だから尚悪いっての。見上げ続ける視線を避け活字へ目を落としやり過ごす。

いつからだったか。ナルトが俺を見る瞳に炎が宿ったのは。

悪い事にそれが嫌じゃないから困る。いや、むしろ。むしろこいつへそういう気持ちを植え付ける手助けさえしたかもしれない。

ぐんぐんと、雨期の竹の子みたいに伸びる体や見る度に分厚くなる胸は、見ていてとても気持ちがいい物だった。

日に日に精悍さを増す横顔。煌めく双眼が自分を見つめ追いかけてくれれば良いと、きっと男女問わず里中の誰もが一度は思ったはずだ。

なのに、実際にその瞳が熱き炎を抱きながら泣き出しそうなひたむきさでもって自分に向けられてしまえば、胸に湧き上がってきたのは「不安」だった。

―――いつかその炎は自分を通り過ぎ、誰かに注がれてしまう。

よくあるアレだ。手に入ってしまえば今度は失う事に怯えてしまう、ってやつ。
だからそうして、それを誘った癖に今度は臆病者みたいに背を向けて気付かない振りしか出来ない自分が可笑しくて堪らない。

どうやらこの将来有望な若者も、あまり多いとは思えない脳みそを振り絞って「さすがにコレは不味い」とは悟っているらしい。

いつもは猪突猛進、思い立ったら吉日とばかりに思考と口が直結しているこいつが戦法を変え、遠巻きに様子を窺い、しかし爛々と目を光らせながらジリジリ間合いを詰めてきている。

そしてそれは今にも「不動の鉄壁」という、名ばかりで見かけ倒しこの上ない脆い脆い壁をひらりと飛び越えて侵入してしまいそうな位置につけている。


……恋多き男と木ノ葉実質ナンバーワンもて男が二人揃ってこの有り様だ。里の未来は危うい。

「俺にとって先生はさー」
「うん」
「超えちゃいけない壁。なんだと思う」
「…ふーん。面白いね。お前は壁を見たら越えずにいられない性質だと思ってたけど?」
「そ。俺ってばこの数年死に物狂いで任務やら修行やらをこなして来てたワケじゃん?当然目標は『火影になる』ってのもあるんだけどさ、まずは先生を超えるっていうのがあったんだ」
「…」

さわさわと風が通り過ぎ、金の髪から汗臭さを運ぶ。

それは何よりも現実的にこの若者の生の息吹を俺に知らしめるもんだから、うっかり疼き出しそうな腹の下へグッと力を込めて堪える。

フィジカルな疼きは難なくコントロール出来るっていうのに、メンタルな部分に関して言えば、相変わらず意外性ナンバーワンの座を守り続けているこいつが今度は一体何を言い出すのだろうかと、胸の奥がざわめくのを止められない。

「けど」
「…」
「何か突然さー、ふと思っちまったんだよな。先生を超えたら俺は…」
「うん」
「…大事なもんを失くしちまうって。」
「そりゃまた買い被ってくれたもんだねぇ…俺を超えたって何も得る物なんて無いよ。それにお前は火影になるんでしょ?だったら俺なんかサッと飛び越える位じゃないと」
「ちぇっ。ズリーなぁ、先生は」
「……」
「分かってんだろ?俺が言ってる意味」

脂肪の薄いまぶたがふいっと上がり空を映しながらメラメラと恋の炎を揺らめかせる。

ああ、いいね。そういう目、大好き。もしも、その炎が燃え続けるって永久保証があったならば飛び込んでしまえそうだ。

だけど俺は一度手痛い失敗をしている上にそんな夢物語みたいな事を信じるには年を取り過ぎた。
 
 
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