*BL*

□例えば
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例えば。


うん、例えば。きっとその頭の中は俺が一生掛かっても理解出来ない難しい事ばかりなんだろうか、とか
それから、愛読書を通り過ぎた色違いの瞳は一体何を見ているんだろう。

ずっとずっと変わらなかった先生を変えたのは、俺のそんな疑問だったのかもしれない。


「なあ、先生って変わんねえよなー」
「お前ねぇ、人間そうそう変わるモンじゃないでしょ」
「だって俺を見てよー。背だって先生追い越したし、もう上忍だぜ?」
「…俺にもそういう時期はありましたー」
「あ、そっか。先生も19ん時には背が伸びてたんだよなー」
「……」
「もう止まっちゃった?」
「殴るよ?」
「…スミマセン」

ポコン。とマヌケな音で俺の頭を撫でた本は何年も前からずっと同じ表紙。

『エロ仙人ってば新作書かねぇのかよ!』なんて思いながら細い手首を捕まえた。

何でもない黒い部屋着が肌の白さを際立たせて色っぽい。掴んだ手首をクイッと引けば前のめりになった先生が俺を見下ろす。

優しい眠たげな瞳と色素の薄い口唇。

普段隠れている部分が見えているって、どれだけ一緒に居ても

慣れない。飽きない。ときめく。先生ってばちょー綺麗だ。

「……」
「…何?」
「……ヤ」
「駄目」
「…まだ何も言ってねーってばよ!」
「サカり過ぎなんだよ、お前は」

身の危険を感じたのか背中を反らせた先生の腰に縋り付いてみる。

一緒にメシ食って、それからホットココア片手にお約束の読書を始めた先生

その胡坐の片足に頭を乗せて、キバから借りたバイクの雑誌を読む俺。


こんな時間が一番好きだ。


…なんて言っても誰も信じねーけど、本当なんだってば。

抱き合っている時もキスしている時も幸せに決まってるけど、こうしていると、俺は本当に先生の一部になれたみたいで嬉しい。

「…大好きだーっ」
「……」

ぎゅっと腕を回した体は小さく震えるだけ。ぜってーに抱き締め返したりはしない。

そんな先生が好きだ。どうしようもない程。
だって俺は知ってる
そんな顔してそんな態度で、本当は誰よりも欲張りなひと。
俺がほんの少しでもよそ見をしたら『ホラこうなると思ってた』って何でも無いコトみたいに笑って背中を向けてしまう。

強くて臆病で愛しい人

だから何があっても俺はこの手を離さない 離せない
離してなんかやるもんか!
 
 
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