*BL*
□ある寒い冬の夜
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並んで歩いていると「あ、今の女、先生のコトすっげー見てた」だとか「誰?知り合い?」といちいちうるさく聞いてくるけれど
その数倍の男女がチラチラ遣る視線のほとんどが、惜しげなく晒された二の腕や広く分厚い背中、空を映したような蒼い瞳に注がれている事に気付いて無いのだから鈍いにも程がある。
「俺のモン〜」と歌うように言い、柔らかく絡めた二人分の指先をそれでも少しは隠す気があるのか自分のポケットへぎゅうぎゅうと突っ込むもんだから俺は俯くことしか出来なくなってしまう。
「恥ずかしいでしょ」
「なんで?」
「……」
「いいじゃん。寒いんだしさー」
男二人が指先絡め合ってる状況で寒いなんて言い訳が通用する訳ない。
だけどそれでもいいか、と思わせる笑顔だとか明るさに逆らうのを既に諦めてしまった俺も相当のモンだ。
「……」
変わらぬ呼吸を背中へ感じながら窓から見えるのは白み始めた空。
夜明けは、遠すぎず近すぎない距離。
子供みたいに体温の高いコイツのお陰で寒さは感じない。ふと、今までどうやって独りで寝ていたんだっけ?と考えた。
「次の休みは好きな事をしよう。うるさいナルトをどこかへやって」などと考えているのに、実際ひとりになると何をすればいいのか全く分からない。
安らいでいた時間はもう何の助けもくれず楽しかった事は少しも楽しくない。
白い空を見るのは久々だ、と気付いた。
以前はそれこそ毎日毎朝こんな空を眺めていたような気がするのにそれすら本当だったかどうかあやふやで。恋は人をバカにするってのは本当なんだろう。
そこにはどうしても折れぬ強い気持ちがあった筈なのにこうしてぬくぬくと他人の体温に包まれていると、これでいい。と思ってしまう。
コイツといると毎日が一生みたいだ。毎日にしっかりと喜怒哀楽が詰め込まれていて、これまで生きてきた30年以上と今の一日が同じ早さで進んでいるような気さえする。
毎朝生まれて毎晩死ぬように生きるナルト。
こいつがいなくなったら、恐ろしい退屈に殺されてしまいそうだ。
俺はどうやってあの日々を生きていたんだろう?
「…責任とれ」
「……ぐおお…」
耳の後ろで聞こえる騒音に向かって呟いてみたら、俺ってどっかのウザイ女みたい。と情けなくなった。
こんな事をたとえ毎夜考えていたとしても、ナルトが別れたいと言ったらきっと俺は追い縋ったりなんてしない。大人のプライドじゃなく、愛しているからなんてクサい感情でもなくて。
ただ単に、俺には誰かを引き止めることなど出来ない。
だから毎晩こうして死んだみたいに眠るナルトを一生懸命背中に焼き付けて
白んだ空がこのまま明けなければいいのに、と願うんだ。
End
⇒あとがき