*BL*
□ある寒い冬の夜
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「せんせ…手…」
「…?」
もうすっかり寝入っていると思っていたナルトがボソボソ呟きながら後ろから腕を回してきた。
一瞬、また不埒な事をされるのでは?と身構えた体を通り過ぎ、祈るように重ねていた俺の両手の間へ大きくガサついた手の平が割り込むと、ぎゅうっと不器用に握り締めた。
「……」
「…ふぅ…」
起きているのか寝ているのかよく分からない呼吸をひとつ吐いて、それからまた背中に張り付いている腹が規則正しく呼吸を刻み始める。
いつでも驚かされるのはこんな些細な事。
誰よりも孤独に育った筈のこの男が一体全体どこでどうやってこんな仕草を憶えたのだろう、と考える度、思考が変な方向へ行ってしまいそうになり慌てて切り上げる。
そういう感情は御免だ。きっと俺とこんな関係になる前には普通に若い女の子と付き合ったりもしただろうし、任務でそういうコトを強制されるのだって珍しくない。
下手すれば俺以外の男とだって「ない」とは言い切れないしな。
「……」
「ごごっ…」
ほんの少し体を捻れば、目の前に大口を開けて眠る顔。
仄かに見覚えのあるアホ面を眺めながらこういうのを初心に帰ると言うのかなぁ、などと考える。
自分の上を通り過ぎた男女は皆一様に「束縛なんてしないよ、だってそういうのは嫌いでしょ?」と勝手に決めつけドライで後腐れない関係であろうと必死だった気がする。
そうさせていたのは俺自身なんだと当然気付いていたし、どちらにしてもちゃんとした関係を築きたいなんて思ってはいなかったから都合がよくて。
そうあるべきで、そうあっただけだ。
ところがコイツとくれば、嫉妬するわ束縛するわ、どこに行くな誰と喋るなそんな表情をしてくれるなとやたら注文が多い。若さか、はたまた恋愛初期特有の独占欲だろうか。
やりたい様にさせておいたら…最近はといえば治まるどころか徐々に悪化している様な気さえする。
そして少しも知らずにいるのだ。
俺が同じ様な感情をジリジリさせて一挙手一投足に目を気を配っていることを。