*BL*
□名も無き感情の狭間で僕らはただ途方に暮れる
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真夜中に上忍3人集まって何してんだか…と、ベッドに大の字になったナルトを横目にカカシの差し出したグラスを受け取った。
「ったく〜。何でこんな風になるまで飲ませるのよ、お前も」
「知らねぇ。こいつが勝手に飲んだんだ」
さっきナルトに差し出された物とは違う切細工の美しいグラスには紅い液体が入っていた。シェリーが甘く香る。
「……」
「で?こいつは一体何が楽しくてこんなに飲んじゃったの?」
「知らねぇな。自分が酔っ払う量を分かってねぇただの餓鬼なんだろ」
「あはは、じゃあお前は酔ってないんだ?」
「……さあな」
グラスを口唇に宛てたまま横目で部屋を見回したサスケに気付き、揃いのグラスの中身を少し含んでからなるべく小さな声で囁いた。
「何も、変わってないよ」
「…」
チッと低い舌打ちに反応したようにナルトがぐごっと鼻を鳴らす。
大きな眠り猫の乗るベッドへ寄り掛かり、サスケは足側にカカシは頭側に、離れすぎない距離のままグラスを空にする事だけが目的みたいに黙々と液体を舐める。
「……」
「お前も泊まってくんでしょ?」
「あんたが引き止めたんだろうが」
「だってこんなのポイッと置いて行かれちゃ堪んないからね」
「…このままここで寝る」
「布団敷いてあげるからあっちで寝なさいよ」
「……」
カカシの指差した先を見遣ってからもう一度、今度は大きく舌打ちをした。
「…えげつねぇな」
「……」
流石に少し気が咎めたのか色違いの瞳をそっと伏せ、規則正しい寝息と共に上下するナルトの胸板へ視線をやる。
はっ。と溜息を吐きながら黒髪を毛布へ着けて天井を仰ぎ、口の中で何か独りごちているサスケを見ぬ振りで遣り過ごすと言葉通り隣の部屋で寝床の支度を始めた。
「…余計な事ばっかりしやがる」
胸のつかえなど何も無さそうな表情で心地良い眠りを貪る青年の足を小突きながら
まだ目裏へ鮮やかに甦る白い背中を懸命に思考から追い出そうとするが努めれば努める程、色付く肌の様子や堪え切れぬと漏らす吐息ばかりが頭にこびりつく。
写真などの物品よりも強く記憶に残るものは意外にも『匂い』だ。
一歩踏み込んだ瞬間に「ああ、まだダメだ」と胸を突いたのはその香りであり空気だった。
顔を合わせずにいるのは案外簡単なのだけどそれすらを拒否させたのはプライドだったのか大人になりたさだったのか、それともそれこそが未練であったのかもしれない。
自分は自分が思うほど強く非ず、人は自分が思う程弱くも無い。
ただどんな人間にとっても困難なのは、手に入らないモノを諦める強さより、一度手に入ったものを手放す潔さではないか。少なくとも、自分にとっては。
始まりもこんな季節だった。
そして終わりは暖かくなり始めた季節をひっくり返すような唐突さで襲った。一方的で取り付く島も無く。
手を差し伸べた癖に違うと分かればなんの未練も見せずに引き戻す。あんな人間に惚れる自分が馬鹿なんだと分かっていたってどうにもしようが無い。
始まってしまった物を終わらせるのは酷く困難だ。どんなに綺麗に幕引こうとしても体の中には果てぬ貪欲さが渦巻き、取り戻せと神経を圧迫してくる。