*BL*
□名も無き感情の狭間で僕らはただ途方に暮れる
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「お前カカシとよく会うのか?」
「…先生と?」
珍しく交わされた約束。時間通りにサスケの家へ行くと「早いな」と言いながらドアを開けたサスケはまだ濡れた髪の上にタオルを乗せてハーフパンツ一枚という姿だった。
男同士で飲みに行くのにわざわざシャワー浴びたりするサスケらしい几帳面さが、やっぱり意味もなく心を温める。
ドライヤーの音に掻き消されそうな台詞を聞き逃さなかったのは、最近滅多にサスケの口から聞くことの無い人の名前があったからかもしれない。
「いや、こないだ任務帰りにたまたま会って一緒に報告書出したりして…そんであの待機所で会った時くらいかな」
「ふん…」
生乾きの髪を手ぐしで整えながら鏡の前を離れる。あまり物の多くないサスケの部屋のど真ん中にあるカウチに寝転んだまま、やっぱり数年前とはすっかり変わった、形良い筋肉が浮かぶ背中へ視線を遣る。
「なんで?」
「別に。聞いただけだ」
ふーん。と気のない返事をしながら「お前は?よく会うの?」と、ごくごく普通の受け答えが妙に喉へ引っ掛かり、結局出て来なかった。
サクラは?と続けて聞かれて「最近会ってねぇ」と正直に答えれば「終わってんな」と皮肉っぽく笑う。
「…お前は、違う奴が好きなんだと思ってた」
「俺?俺が、サクラちゃんじゃなくて?…例えば?」
「…さあな。ただなんとなくそう思ってただけだ」
「なに、いのとか?ヒナタとかって事?」
「さあな」
なんだよ、言えよ!と体を起こすと「行くぞ」とすっかり支度の終わった色男が、整った顔を際立たせる小奇麗な黒いシャツとなんでもない真っ白なパンツを身に纏い見下ろしていた。
「サスケ…ずりぃ!」
「…何がだ、このウスラトンカチ。意味分かんねぇ事言うな」
「これじゃ俺がお前の引き立て役みたいじゃねーか」
「女が来る訳じゃないだろ…」
「そうだけどよ〜」
ふざけた英字の描かれた新緑のTシャツにくたびれたジーンズはお気に入りだけど、こんな奴の隣にいたらどう見ても餓鬼臭ぇ。
狭い玄関で、ちぇっと舌を打ちながら同じくくたびれたスニーカーを履き直していると後ろから「どけ」と背中を蹴られた。
「なあ、その靴どこで買った?」
「…忘れた。どっかに任務で行った時だと思う」
「いいなーサスケは!顔がいいから何着ても似合うもんなー」
柔らかい皮で出来たクリーム色の靴は、スリッパみたいに踵が折れ込んでいてシンプル過ぎる位の形なのにサスケが履いた途端、どっかの新鋭デザイナーズコレクションの新作に見えた。
でもきっと俺が履いたらただの趣味の悪い靴。こういうのだ。こういうのが分かって来たことが自分の成長を教えてくれる。
サスケにはサスケのスタイルがあって、俺には俺のがある。上から下までまるっきりサスケと同じ格好をしたって俺はサスケになんてなれないし、サスケだって俺にはなれない。
「じゃ、行きますか!」
「おう」
「たまにはいい酒飲んで体労わんねーとなぁ!」
「お前の飲み方は労わってねぇだろうが」
ぐでんぐでんになれるってのは身も心も許してるって事だぜ〜!と笑えば、今日はどんなに酔っ払っても絶対に家にあげねぇからな。自分の図体考えろウスラトンカチ。とちょっと本気で怒ってる声が返ってきた。
実際、忍の俺らがそんな風に酔っ払えるって激レアラッキーな関係である事に感謝しながら見上げた空には
あの夜、先生と帰った時と同じ朧月が輝いていた。
第2話
End