*BL*

□名も無き感情の狭間で僕らはただ途方に暮れる
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「ウス」

「…よう」


待機所で見慣れた黒髪を見つけて声を掛ければ顔も上げずに返事を返して来た。

まるで結界でも張ってあるみたいな空間がサスケの周りにだけある。見えない壁を見えないフリでドカドカ進み「だりーぃ!」と叫ぶと遠巻きにしていた奴らがビクリと体を震わせた。


こういうのってホント面倒臭ぇ。と旧友の口癖がしっくりハマる。

そりゃ俺だって里抜けがご法度なのは知っているし、処分が普通よりずっと軽い特別措置だったって事が更に皆の反感を買っているのだとも分かっている。

だからといって陰でこそこそと穿り返してはいつまでもネチっこい非難の視線を送る、女の腐ったみたいな忍を見れば胸糞が悪くなるのだけはコントロール不可能。

面と向かって何も言えない上に、実力も追いついていない奴らが嫉妬めいた正義感を振り翳して「もっと制裁を!」なんてつまんねー事を言い続けているのも癪に障る。

彼の人も言ってたじゃねーか”罪を憎んで人を憎まず”ってよぉ!罪を犯さばこれをいさめよ、しかし改心せばこれを許せ、ってヤツだ。

ただ友達だとかそんな青臭い感情だけじゃなく、今はもっと、こいつが貫きたかった事なんかも見えてからは友情よりずっと深い意味で繋がっている気がした。


「……俺ってばSランク〜」

「…俺はS、単独だ」

「……」


チクショウ…。声にこそ出してないけど『ウスラトンカチ』と動く口。

こいつマジで変わってねぇな!


「お、俺だってS単独が良かったのに無理やりツーマンセル組まされたんだよ!」

「そりゃ残念だったな」


フッなんて漏らした息が馬鹿にされたみたいでむかつくぜ!


「…色男さんは今度の休みなにしてんの?」

「さあな」

「すっげぇ旨い酒置いてあるとこ見つけちゃったんだけどよぉ」

「…お前と飲むのはもう止めた」

「なんだよ!こないだの事まーだ根に持ってんのか!?お前女々しいなー」

「……」


数日前、いつもの居酒屋でいつも通り約束無しで顔を合わせた。その日俺は珍しく後味の悪くない任務を終えたばかりですこぶる気分が良く、その上報酬までがべらぼうに良かったもんだからどっか遠い国でしか造られていない幻の銘酒なんてモンを注文して、安酒に慣れた体を甘やかしてしまったのだ。

当然、居酒屋を出てからの記憶はまったくない!

……。
 
 
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