*BL*

□名も無き感情の狭間で僕らはただ途方に暮れる
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「あれ?サクラに会いに行くんじゃないの?」


相変わらず字汚いねお前!などとからかわれながら一緒に報告書を出し終え、朧月の照らす中、同じ方向へ足を向けた俺に不思議そうに聞いてきた。


「あー。任務明けは会わない事にしてんの」

「ふぅん。お前って意外と淡白なんだ」

「うわ、やっらしー。元教え子にそういう事言うか普通?」

「何言ってんのよ。だってお前ずっとサクラを追いかけてて、やっと念願叶って付き合ってる訳でしょ?お前の事だから…2日と空けずに会ってるのかと思っただけだよ」

「うーん、てかさ、サクラちゃんってあんま外の任務に行かねぇじゃん。だからこう…汚いままで会いたくねぇんだよな」

「…そうだったね。最近ずっと病院と研究所任務だっけ」

「そそ。血の匂いぷんぷんさせてると怒られっしさ」


ニッと笑いながら言ったけれどそれは自分自身に言い訳しているみたいで。とても居心地が悪いものだった。




あの一件があって、俺たちの中の色んな事が変わった。


里に戻ったサスケを歓迎する者はなく、「うちは」という高級ブランドは今やアメリカ産牛肉並みの大暴落だった。

昔はきゃあきゃあ言いながら追いかけ回していた女たちは既に新しいブランドに飛びついていたし、あいつを仲間として見る忍もごく僅か。

中にはあからさまに嫌悪感を表す奴もいた。サスケとのツーマンセルやスリーマンセルは嫌だと堂々と口にし、受付では度々押し問答が起こっていた。

サスケ自身は「里に戻ると決めた時に既に想像していた事だ。仕方がないだろ」と大して気にもしていない様子だったけれど

俺はどうしてもそいつらが気に入らなくて何度も取っ組み合いの喧嘩になった。


そしてもうひとつ変わった事はサクラちゃんが俺を見る目、だった。


サスケを取り戻すという同じ意思の下、数多の戦いを潜り抜けた。

俺は何度も彼女を傷つけたり助けたりし、俺も何度も彼女に傷つけられたり助けられたりした。

七班として行動を共にし始めた頃とは違い、彼女の目には一人前の忍を見る時の尊敬が宿り、それから、いつからか俺の目が彼女の姿を追うよりも先に俺を捉えていた。

ただそれは、サスケに恋していた時の目とは微かに違う色でもあった。



サスケを連れての帰還から暫く経ち、里の興奮が落ち着いて来た頃、突然俺を昔懐かしの練習場に呼び出し「付き合ってあげてもいいわよ」と言った彼女に俺は二つ返事でOKした。

どうしようか、なんて考える暇もないパブロフの犬だ。

ずっとあの桜色の髪を見詰めて来たんだし、彼女がいたからこそあのサスケ奪還も乗り越えられたのだ。

泣かせたくなくて。あの泣き顔をもう二度と見たくなくて。でも、何の為に戦ったのかと今振り返ってみればそれは、自分自身の為でしかなかった。

俺は、自分の恋も、友情も、何一つ失いたくないという我侭で以ってあの凄惨なる戦いの中、ただひたすらに己を、己の信じる道を貫き通しただけだったのだ。
 
 
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