*BL*

□名も無き感情の狭間で僕らはただ途方に暮れる
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わたしがいる事を忘れてしまっているような時

たった一言声を掛けるか軽く肩に触れるだけでいいのだというのにそれが出来ず、ただ黙って隣に座り続けることに疲れたのだと思う。


思えばかなり前から知っていた。ナルトが求めているのは自分ではないと。

ただどんなに深く考え慎重に様子を窺っても、他の女の子に気がいっている風ではなく、目の前に広がる景色ではない何処か遠くを見詰める横顔を、ただぼぅっと眺めている事しか出来なかった。


欲しがられるのはとても心地良く、それから充分に信用に足るだけの言動を目の当たりにした。突如訪れた恋の衝動に打ち勝つにはわたしはまだ幼すぎた。

もう少し、せめて今の自分くらいに物事を見る目があったのなら、今も私たちは良き友人として変わらぬ友情を抱き続けられただろうか。

わたしを見つめるナルトと、それを鬱陶しく思うわたしを、演じ続けられたのかもしれない。


いつだったか、今はもうただの「思い出深い場所」になってしまった演習場に佇むナルトを見つけた。

その時また唐突に気付いてしまったのだ。知っているのはわたしだけではないと。

私たちを遠巻きに見る目の中にいくつかその目を思い当たった瞬間、また自分を過信していた事に気付いた。

いつでも人が気付いていない事に気付いているのは自分だけのような気になってしまうのがわたしの欠点だった。そしてすっかり忘れて自惚れている時、必ず小さく背中を突付いて教えてくれる大人がいた事を思い出した。


皆の思う私たちの関係はあくまで「ナルトに思いを寄せられるサクラ」で、見慣れた顔に会う度「サクラも物好きね」と、同情する様な物言いの羨望を受けた。

ナルトは誰にも言わなかった。この関係を望んだのがわたしからだったと。
目敏く早熟な子たちは既にナルトの存在を認めていて、そうしてそれに気付いた途端にわたしは偉そうに言い放ったのだ。アンタのものになってあげるわ、と。

今でも忘れない。一瞬大きく見開かれた瞳に映ったのは驚愕だけではなかった。それは確かに「逃げ場を失った者」の落胆したそれだった。


そこで手放せる程大人でなく、そうかといって約束された関係に胡坐をかける程には純粋さを失ってもいなかった。

わたしが持っているものなんてほんの少ししかなかったけれど、それをじりじりと撒きながら脆く危うい2年を過ごした。

キスもセックスも、それから特別な忍術も。与えられるありとあらゆる物を残さず与えた。

例えナルトの望むモノがわたしではないとしても、ずっと気付かずにいてくれればそれでいいと思ったからだ。

ナルトを騙し、わたし自身を騙そうと努めたのだけれど、結局全てを与え切り、為す術がなくなってようやく向き合うことが出来た。


失うという恐怖に。


 
充分に育ちきった後ろ姿は声を掛けられぬ気高さを纏い、立ち尽くしていた。


とうとう手放したあの人は、一体どこに行くのだろうか?

あの人の事だもの、何年、何十年掛かったって手に入れるのだろう。いつか、いつかあんな顔をしなくなる日が来るのだろうか。その日が早く訪れますようにと、わたしには祈ることしか出来ない。

いつか、笑って話せる日が来たら聞いてみよう。あの時、あなたの胸には誰がいましたか?と。
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