*BL*
□名も無き感情の狭間で僕らはただ途方に暮れる
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俺は自分の原始的なつくりの脳ミソをそれなりに気に入っていた。
明日考えればいい事は今日考えないし、嫌な事や嫌いな物は徹底的に排除してくれる。
気に入ったもんはちゃんと覚えていてそれを思い出した時はとても幸せな気分になる。
そもそもそんなに頭は良くないし、どっちかって言えば考えるよりも先に体が動いてしまうから、何もかもが終わってからふと「あ、あれはそういう意味だったんだ」って気付く事の方が多かったりした。
ずっとそうやって生きて来て、初めて思った。
この頭がもっと良かったならば俺は、あの人達を、自分を、こんな風に苦しめなかったのかなぁと。
「…せんせー?」
「よ、ナルトじゃないの。久しぶり」
ちょっとキツイ任務からの帰還。重い体を叱咤しつつ『あー報告書なんて書かねーでこのまま帰って寝たいなー』なんて思いながら大門をくぐった俺を出迎えたのは思いもかけず、元上司のしなやかな立ち姿だった。
「なに、お前今帰ってきたの?」
「そー。めちゃくちゃ疲れたぁー」
愛読書を仕舞い込む肩に手を着いて思い切り体重を預けると、わ。なんて声を出しつつも数年前と何ら変わらぬ頼もしさで支えてくれた。
「お前このまま帰りたいんじゃないの?俺が報告書書いといてやろっか?」
「んー…大丈夫。もしかして先生も任務帰り?」
「そ。ホントこき使われてて困るよ。年寄りは大事にして貰いたいモンだよね〜」
よいしょ、とそれこそ年寄り染みた掛け声と共に俺の腕の下へ肩を入れた。数年前にこんな事をされたら足が地面から浮いていただろう。
それが今では丁度良い高さになっていて、己の体の変化に驚かされた。
「先生ってこんなに細かった?」
「俺が細いんじゃなくて、お前がデカくなったんだよ」
「や。背はとっくに追い越してたけどさ〜、これって…」
だらしなく膝を折っていた両足に力を入れて立ち直し、反対側の肩を掌で包みちょっと力を込めてみただけで真逆の体勢になった。
さっきまでは「先生の肩を借りる俺」だったのに今は「先生の肩を抱き寄せる俺」だ。
「な?先生これじゃ俺の女みてぇ!」
「はは。こんなゴツい女がいたらお目に掛かりたいよ」
いや待てよ、そういうくノ一って結構いるよね。って言う先生の目が、俺を見上げながら細い三日月みたいになる。
あー!いるいる!その辺の男よりゴツイのがごろごろしてるよなー、なんて笑い合いながら、肩を借りてるのか抱き寄せているのか分からないけどぴたりと張り付く脇腹同士が心地よくて。
いつの間にか吹っ飛んだダルさとか、さっきまで亡霊みたいに付き纏っていた血生臭さをすっかり忘れてしまった。