*BL*

□名も無き感情の狭間で僕らはただ途方に暮れる
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忍という職…いや、生き方?人生?とにかく忍のいろはを身に着けている人はみんな頭をふたつ持っているんじゃないかと思う。

そうじゃなきゃやりきれない任務が当たり前のようにごろごろしているし、感情を殺すなんて事はそもそも不可能なのだ。

感情を殺すって事は同時に色んなものを失くしてしまうから、もしも本当に感情を殺せるとしても、そうなったら任務なんてこなせないだろう。

ただの、生きるロボットだ。



例えば、好きになった人に奥さんがいた時。

「奥さんがいてもいいから愛して」って言う人。それはあくまで妥協案であって、ゼロよりは1。

きっと虚しい嘘でしかない。

本当はいてもいいなんて思ってないのだし、もしも男が「じゃあ奥さんも君も愛すよ」なんて言ったらキィキィ泣き喚くに決まってる。

「奥さんがいるのだけど彼が本当に愛しているのは自分だけ」「奥さんの事は愛していない」そう思い込もうとする悲しい自己防衛ではないだろうか。

愛するという事はとても美しいけれど、時として虚飾や欺瞞に満ちていてうんざりする。


だから俺は思う。恋にしろ忍にしろみんな頭と心をふたつずつ持っていて、上手く切り替えながら生きているんじゃないかって。


ならば、いつも微笑んでいるあの人は一体。どんな感情をどんな風に操作してあんなにも素晴らしいバランスを保っているんだろうか。




「なぁ、先生ってパーフェクトだよな」

「…カカシの事か?」

「俺らの先生って言ったらカカシ先生だろ。お前ボケて来たんじゃねーの」

「最近カカシカカシうるせぇぞ、このウスラトンカチ」

「ウスラトンカチって言うんじゃねぇぇぇ!」


昔は『憧れの忍』として俺の中で最高最強だった先生のイメージは大人になるにつれ少しずつ変わってきていた。

酔っ払った勢いでカカシ先生んちに泊まった次の日の朝、睨み付けるサスケの向こう側から「はい、お前の」とマグを差し出してくれた顔は里きってのエリート忍者という肩書きに似つかわしくない穏やかで美しい物。

男の先生に「美しい」なんて言葉は間違っているのかもしれないけどそうとしか思えないほど綺麗な顔だった。

こんな綺麗な先生にずっと恋人がいない事や、それこそ数え切れない程のくノ一達が玉砕したというのはよく聞く話。

なんで彼女つくんねーの?と聞けば「いい子がいたら紹介してよ」なんて言う癖に、いざこっちが本気でセッティングしてやれば、やれ任務が入っただとか今日は疲れたからまた今度ね、なーんて変わらぬ微笑を浮かべて逃げてしまう。

……ん?

先生って…もしかして…


「ゲイ、だったりして…」

「……」


ぽろりと口から零れた思考をすかさず拾ったサスケが目を見開いて凝視してきた。

そんな顔しててもイケメンなのがムカツクぜ。


「お前今、何…」

「わ、違うって!先生にはぜってー言うなよっ!俺、殺される!」


「俺が誰を殺すって?」

「…っ」


いつでもそうだ。見計らった様にタイミング良く現れては俺の頭と心臓をぐちゃぐちゃに掻き混ぜる。
 
 
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