*BL*
□名も無き感情の狭間で僕らはただ途方に暮れる
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「ん…っ…」
「ッ…う…っ…」
手の中で震えるものは、触り慣れた自分の場所よりほんの少し張りが足りない。
それが自分達を隔てる物のひとつなんじゃないのかと、理由も意味も根拠も無い考えが大波を超え無駄に冴え始めた頭を過ぎった。
「…あ…、なんか久し振りだねぇ…」
「……」
早々に起き上がり掛けた生白い体を引き寄せ、母親が愚図る子供にするように銀の髪を肩へ無理やり埋めさせた。
一瞬強張ってから徐々に力が抜けて行く背中を腕の中へ閉じ込めたなら、この時だけは何かを手に入れた気分になれる。
何も語らず何も見せない人を物理的に掴み、温もりが伝える存在で自分を慰めているだけなんだと分かってはいても、それ以上に手に入れる方法がまったく見つからないのだから仕方が無い。
「……」
「…」
「……」
「ナルト、起きてたりして」
「…あいつじゃ起きてたら大騒ぎしてるだろ…」
「はは、そうだよねぇ〜」
キンキンと音が鳴りそうに張り詰めた空気を飄々とした声色で斜めに受け流すその手法も、愛あるとは呼べなくとも普段以上に激しく荒々しい行為をした直後で他の名を出す牽制も。
これが俺達の関係なのだ、と言いたげに宙を舞う。
決して自分の事を好きにならない人間に恋をする事ほど無駄な物がこの世にあるだろうか。諦めるな?当たって砕けろ?そんなもんは糞食らえだ。時間の無駄で一銭の得にもならねぇ。
「…あっちで寝る」
「……おやすみ」
力を緩めただけでするりと抜け出し、頭のてっぺんから爪先まで未だ完璧な均整を保つ全身を惜しげもなく晒したままひらひらと手を振ってみせた。
コイツのこういう所が大嫌いだ。なのに燃え尽きそうな火に投げ入れられる木片のようでもある。
全部、計算だとしたらコイツは一生ひとりだろうな。この何重にも張り巡らされた罠を越えられるヤツなんて思い当たらない。
……ただひとり、とびきり鈍い馬鹿野郎を除いて。
「……」
「ぐごおおおおお……んがっ…」
近くで工事でもしてるんじゃないかって大音響で夢の世界を満喫している大馬鹿野郎は、マヌケ面に加え、これぞ大の字という形を全身で綺麗に描いたまま、ただただ幸せそうに見えた。
それが事実ではないと知っているのにも関わらず、そうとしか思えないのがこのアホ面の長所なんだろうか。
俺が、幾度となく思い浮かべた懐かしいベッドへなんの苦も無く倒れこんでいる。
知らない、というのは罪だ。
あの白い肌も、この部屋、この空間の貴重さも。何も知らないヤツがいとも簡単に欲しいと口にし、手に入れ、有難がりもせず浪費しているのが妬ましい。
そうだ、これは生真面目な嫉妬だ。
そしてきっとこれからも易々と手に入れるコイツの横で俺は。手に入らないことに苛立ち続けるんだろう。
俺が俺として生きるならば、どうにも出来ないじゃないか。
千年願っても、他人になんてなれやしないのだから。
第4話
End
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