*BL*
□名も無き感情の狭間で僕らはただ途方に暮れる
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「…ハァ…」
「あ…ッつ…」
半年前には無かったまだ新しい傷を舌先で強く押し、仰け反った背中へ体重を掛ける。
う、う、と小さく漏れる呻き声に頭の芯がぐらぐらと沸き立つのを感じながら、急かないよう視界から白い体を追い出した。
闇の中で際立つ衣擦れの音、手の中で微かに震える腰。
なにか邪悪な力を借りているのではないかと思わされるのはいつもこんな時だ。
この人というのは底なしの沼の様な存在。
足を踏み入れれば、どちらの意思も関係なくただ飲み込んでしまう。
そうして飲み込んで、何食わぬ顔をしてまだそこにいるのだ。角の無い柔らかく緩やかな表面を波立たせもせず。
「…しつこいよ…っ」
「……」
早く。と言わない代わりの言葉は久し振りに聞いても癪に障る。
女みたいに可愛くせがめなんて言うつもりはないけれど…期間で言えば半年ほど、回数では1ヶ月に5回程の逢瀬でもあちらから求めてきた事などほんの数回しかなかった。
それもそういう時は決まって過酷な任務の後だ。
「…素直じゃ、ねぇな…」
「なに、言ってんの…」
肩越しに振り返った顔を見据えて、焦らしに焦らした場所へ全体重を掛けてやる。
今にも動き出しそうにしていた腰を思い切り引き寄せ、女々しくも肌の表面がなるべく重なるように覆い被さりながら、一度奥深くまで飲み込まれたものをゆっくり引き抜くと視界の端のシーツが影を引いた。
「あ…」
「…っ…」
慣れた体がいい場所を求めて揺れ動くのを感じ、腹の底が冷える。
ふわふわと漂う銀の髪も、行き場を求めて蠢く細長い指も、薄闇の中では存在を主張し過ぎている。
溶けそうでいて、自分の持つ黒髪ほどの柔軟さはなく、太陽の下でも闇の中でもそれは際立っている。
「あ、あ、あ…っ」
「…声…ッ…」
「…、…ん…」
ハッハッと荒い息を背中へ吐き掛けながら、本心とは真逆の言葉が口をついた。
みんなバレちまえばいいんだ。
アンタがどんな人間かとか、俺がこんな風にアンタを抱くこととか、全部。
何も知らないで馬鹿の癖にいつもまともな事ばかり言うヤツの鼻先に突きつけてやりたくなる。あいつが一度も見た事がないこの姿を、声を。
誇示したいんだ、俺は知っている、と。
お前よりも俺の方がこいつを知っている。いつもへらへらしてる目が獣みたいになって同じ虹彩が交じり合う瞬間も、手の平で震える象徴も全部全部。
ナルトの知らないカカシが今、ここにいる。
「あ、サスケ…っ…」
「…っ…」
もう駄目だ、と。生白い手が二人分の内腿を越えて敏感な場所へ這わされると射精を促す仕草をしてみせた。
縋るような強請るような動きはしっかりと目的を果たす。指先で柔らかい皮膚を撫でられると同時に俺を受け入れている場所がきゅうっと締め付けてくれば、後はただ勢いと胸を突き上げる衝動に任せ一心不乱に体をぶつけ合うだけだ。何も考える必要など無い。