*BL*

□BLで20題
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【ひみつ】




かれこれ五日間は寝ていないだろうか

だからなんだ、と数えた指を握り締めたまま砂地へ叩きつけた。


数えた所でどうにもならぬと分かっていて、無駄だと知っていて

それでも何か多少でも意義や意味のある行動を取らなければ今にもおかしくなってしまいそうだからだろうかと考えた。

だからだ、と言い切れぬ己の不甲斐なさに少し笑い、そうしてまた、ああ笑ったのも五日振りだと気付く


暫く使われていなかった頬の筋肉がまるで長い療養の後の手足の様に引き攣る。笑えているかどうかも定かじゃない。でもやはり笑っていたんだろう


だってあの人の事を考えていたのだから





「おかえりなさい」

「・・・ただいま、です」


黒髪越しの真白な天井でいつもの部屋だと気付いた。


はてさて自分はどうやってここに辿り着いたのだろうと思った瞬間

増援の部隊が向かった事、ボロ雑巾の様な俺はすぐさま里へ戻された事、それから一週間意識が無かったのだと捲くし立てながらグッと握り締めた拳でベッドの端をゴンゴンと小突いている人。


「すみません・・・」

「すみませんで済むと思ってるんですか!あなたって人は・・・」


俺がどれだけ心配したかなんて少しも分かっていやしないと横一文字の傷をなぞる様に拳で顔を擦った


困ったなぁ、泣かないでよと呟けば、

じゃあ一体いつ泣けば良かったんですか、あんたが死んでからですか?

それとも腕の千切れた男が「写輪眼、前線にて未だ単独戦闘中、即刻増援するべし」と言い残し息絶えたときですか?

と続けるもんだから、ああ。あいつも死んじまったんですかと少しやつれた額へ掛かる黒髪へ手を伸ばしてみた


「ねえ、イルカ先生」

「・・・なんですか!」

「そんなに怒らないでよ」

「怒っていません!無事で・・・無事で良かったと思っているのに・・・あんたが・・・」

「俺が・・・?」

「そんな暢気にしているから!」



だって先生、俺はさァ

今度こそ死んだと思ったんだよね。

もう一回あんたの顔が見たかったなぁなんて思ってたら

取って付けたみたいに目の前にあるから




ねえ知ってるでしょ?

俺の体は機密だらけで

俺は亡骸でだってあんたに会えない

だからもう一回だけこの目で見たいなぁって

自分を吹っ飛ばす前に もう一度だけ

そう願ったんですよ



「間に合わなかったら・・・もしもあと少し、増援が遅れていたら・・・」

「・・・」

「もう、会えなかったんですよ?」

「・・・でしょうねぇ」

「そんなのは嫌だっ!」



嫌だって言われても俺は、生き方は選べるのだけれど

死に方は選べないようになっちまってるんです



「駄目だ・・・絶対に駄目だ・・・あんな物はもう二度と・・・」



ぼろぼろと大きな涙の粒を惜しげもなく零しながら

あんな俺は見たくないのだと言った


体中に起爆札を巻きつけた愛しい人など

二度と、見たくないのだと泣いた



この体を奪われてはいけないのだと判っているにも拘らず

あんたにあげられたらいいのに、と思ってしまうじゃないですか



その時はちゃんと秘密が漏れないように

あんた以外知る人のいない場所で眠らせて





End
2007/03/23
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