□倦怠期5
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大丈夫ですか?と泣きそうな顔をして覗き込んでくるランボの髪に、腕を伸ばして指を絡めてみた。
少しだけ、彼より柔らかくて長い。

あれから、ずっと比べてる。
いくら彼にすがってみても、それだけは悲しいかな、変わらない事実だった。

だから仕事を出来るだけ増やして、出来るだけ真面目に取り組んで。

あぁ、でも。
慣れないことはするもんじゃないよね。



「まさかいきなり倒れるなんて…心臓に悪いです」

「はは、ごめん」

「あなたでも過労で倒れることがあるんですね」

「…ちょっとそれ失礼だぞ」

「ボンゴレよりマシです」



ぐすん、と鼻を鳴らしたランボがベッドの端に腰をかけてくる。
手は、握ったまま離そうとしない。



「最初から、分かってました。ボンゴレが嘘をついてることくらい」

「ランボ…」

「貴方は酷いです。嘘が下手だから」

「…うん、」



ちゅ、と手の甲に優しくキスを落として、ランボは続けた。



「ボンゴレは、素直なままの方がいいです。無理すると、こうなっちゃうから」

「それは…学んだ」

「勝ち目はないって分かってて、甘えた俺も俺もなんですけどね…」



はぁ、と小さな溜め息が頭上で漏れる。
ランボは最初から分かっていたのだ。
分かっていて、我儘に付き合ってくれた。



「ランボ。お前、本当にいいやつだよな」



目尻に生温い感覚があって、涙が流れている事を知る。
泣いたのは、別れを告げられた時以来、か。



「泣かないで下さい。多分、もう大丈夫ですよ」



淡く微笑むランボの笑みに、更に泣きそうになる。
それを堪えるため、唇を噛んだ。



「仕事、あるんでもう行きますね」

「うん、ありがとうな…」

「いえ。俺はボンゴレの役に立てただけでも幸せです」



じゃあ、と去ろうとするランボに、気になっていた事を投げ掛けようか迷った。
でも聞くなら今しかない。
そんな気がする。



「待って、ランボ」



ドア付近にいた彼は、ドアノブに手をかけながらも止まってくれた。
本当は早く一人になりたいかもしれないのに。
ランボがそこまで強くない事をしっていて、まだ自分は甘えている。



「一つだけ、聞いてもいい?」

「ええ」

「…どうして、俺がずっとランボに嘘ついてるって分かったの?その…嘘が下手とかいう事は抜きにして。嘘がバレたきっかけでもいいけどさ」



うまく、やっていた自信は少なくともあったのに。



「だって、」



その問いに、ランボの声は震えたが、彼はうまく笑顔を取り繕った。



「だって、ボンゴレ。アイツに恋してるんですもん」



最初からずっと、一貫して。

そうランボは困ったように笑い、一礼してからランボはそのままノブに手をかけて出ていってしまった。
部屋には、静寂が残る。


恋、か。
それじゃあ仕方がない。
それにしても言われてから気付くなんて。



(馬鹿だよなぁ、)



ふと目に入るカレンダー。
4日後は記念日だった。
赤いサインペンでチェックが施されているそれは、まぎれもなく自分がしたものだ。
あの頃に戻りたいけれど。



「…依存って案外馬鹿にできないよな」



まさか自分がこうも簡単に嫉妬させられ、しかも調子を狂わされるとは。
少しだけ、いや。かなりムカつくので、ヤツの調子も狂ってればいいことを祈った。
自分だけだなんて、嫌すぎるから。

もう、ここまできたら潮時なんて言ってられないのかも。





























「泣くなよランボー」

「うっ…だってっ」

「お前は柄にも無く良くやったって」



よしよし、とボンゴレの私室から離れた廊下で、フゥ太は弟みたいな存在の彼の頭を撫でている。
昔からこうして、彼が泣く時は自分が慰め役になっていた。
多分、綱吉が忙しくなった頃から。

その時からランボが綱吉に恋心を抱いていたことは知っていたし、子供扱いされて相手にしてもらえなかった事も知っている。
そしてその心境も良く理解できた。
なぜなら、同じ境遇に居るから。
それなのにあの紫のアルコバレーノは、悠々とその壁を越えていった。
年齢とか、全てに置いてのランボ達の苦悩を、まるで無かったかのように。
だからフゥ太はスカルが嫌いだ。
憧れから生まれた恨み。
だがこうして想い人が苦しんでいる以上、彼のバックアップをしなければならないなんて、運命というのは皮肉だとしか言いようがない。
本当は、ランボが上手く望み通りの愛を手に入れられていたならば、あのパーティの日にもっと強烈な事実を叩き付けられたのだけれど、結局本人を焦らせただけみたいだ。
いくら無表情を取り繕っていても、殺気で分かる。



「まぁ、その傷はこれから先癒えないだろうけどね」

「な!フゥ太意地が悪いぞ!」

「そりゃあね。これからの仕事を考えれば悪くもなるさ」



なんせあの紫くんにツナ兄の近況報告に出なければならないのだから。



「つっても、カルカッサに侵入して知り合いに頼めばいいだけなんだけどさぁ」



ちょうど一匹、スカルの部下であるヘルメット軍団の中に知り合いが居るのだ。
その彼に頼めばいい。
その方がスカルは動く。
フゥ太が行ったところで、険悪になって終わるだけである。
そして強がりも加算されて任務は失敗に終わる、と。



「全く旗迷惑なカップルだよねー。今回立ちあったのが僕達だったから被害は少ないけどさ。リボーンや他の守護者にバレてたらどうするつもりだったんだろ?」



生憎リボーンは長期出張、コロネロも訓練の予約が絶えないらしい。
他の守護者に至っては、綱吉の持ち込んだ仕事の処理で今頃大わらわだ。



「うっ…でもボンゴレが元気になるんだったら、いい」

「そうだよねー。ランボと付き合ってどんどん不健康になってったもんね、ツナ兄は」

「そ、それは俺のせいじゃないっ!」

「知ってるよー。言ってみただけ」



ははは、と乾いた笑いを残してフゥ太は足を動かした。
ランボは本当に仕事が残っているので、ここで留守番だ。
所詮、フゥ太も綱吉の虜。
そんなランボにさえ嫉妬していたなんて、今更言えないけれど。



(ほんっとに無自覚ってタチわっるいなー)



向かうはカルカッサだ。
畜生、まさかアイツの為に自分がこうして出向かなければならないなんて。
でもまぁ愛する人の為。
不本意すぎるが幸せを、今から届けてやろうではないか。








(全く人の気も知らないで!)

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