□倦怠期4
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どうせ俺は頭も良くないしスカル達みたいに器用に仕事こなせないしドジでマヌケでバカなダメツナだよっ!












多分、マトモな会話をしたのはその時までだ。
彼は泣いていた。
それでも己は切り捨てた。
彼を繋ぎとめておく為に。




チラリと私室のカレンダーを見て、溜め息をつく。
もうすぐ付き合い始めてから2年が立つ。
明後日だ。
綱吉の、忘れないようにとふざけて赤いサインペンで数字を丸で囲んでいた姿を思い出す。
あの笑みが、懐かしく感じる。


恋だの愛だの、馬鹿馬鹿しいとさえ思っていたのに。
あの笑顔を見ると、どうも調子が出なくなる。
沢田綱吉という人間は、そういう一種の魔力を持っていた。
暗い闇に一筋の光をさしこませ、どこからともなく現れては体温だけを残して去っていく。
寒いその世界では、暖かさなんて貴重なものは中々手に入らないから。
皆必死になって手に入れようとするのだ。
あの日溜まりのような暖かさを。

それでも本人は自覚なんぞしていなくて、ただただ受け入れるだけ。
特別な人の特別な人になりたくて、争い、時には血を流して本人に怒られた事さえあった。

思えば、最初から闇と光の共存。
これを奇跡だとか運命だとかで表現してしまうと何だか軽率な感じがするが、まさにその類であると思う。
よくここまでやってこれた。
しかし終わらない。
己達が目指すのは、ゴールだとかそんなつまらなく下らないモノなんかではなく、その先にあるものであるはずだ。
もし綱吉が止まろうものなら、ひっぱたいても行く価値のある場所。
綱吉には沢山の種類の特別が居るが、スカルには居ないのだ。


だがそんな理想に相反して確かに繋がっていた紐が緩み始めている。

スカルは舌打をした。
闇の中にはもう戻りたくない。
彼を光の中に戻すことも嫌だ。

だが、どうすればいい。
沢田綱吉という男がスカルの思い通りに動いたことなんて1度たりともない。
多分これから先もないのだ。
分かりやすい性格の裏腹で、また厄介な男であった。
だから付き合っていて面白い。
だから、もっと求めたくなる。



こんこん、と控え目なノック音。
部下だ。
しかしこんな真夜中。
何かあったのだろうか。



「入れ」



許可を得てすぐ、ガチャリと扉が開いた。



「何の用だ」

「今回の報告書のチェックです。ボスがスカル様にまかせろ、と」

「…分かった。そこに置いておけ」

「はっ」



カルカッサのボスはひとに頼るクセがある。
ゆうなれば怠け者。
いつだってスカル任せだ。
報告書のチェックだって本当はボスがやればいいことではないか。
しかも態々こんな時間に人に頼みにくるなんて。
少しだけ神経を疑う。
しかしそれには慣れっこだったスカルはやれやれと首を横に振るだけだった。



「あ、そういえばスカル様聞きました?」



まだ居たのか、という言葉を飲み込む。ヘルメット越しに相手の顔を伺えば他愛のない話をしたいようだった。
上司に顔を売る事は大切だし、仕事の1部だとも言えよう。
なので邪険にはできない。
というか、聞こえてきた内容がそうそう邪険に出来ないものだった。






「ボンゴレの10代目、仕事のしすぎで倒れたらしいですよ。いやぁ最近表の会社の業績もグングンあげてましたからねぇ」












―――――――……は?

スカルは耳を疑った。
構わず部下はペラペラ続けていく。



「何でも自ら仕事を入れこんでたみたいで。馬鹿ですよねぇ。でも仕事好きっていう処はうちのボスにも見習って欲しいというか。そうすればスカル様だって少しは休めましょうに」



愉快に話す部下は置いといて、スカルは固まった。
仕事のしすぎで倒れた?
まさか。
アイツは無類の怠け者で仕事なんか大嫌い、なりたい職業はニートだった筈。

どういうことだ。
多分、最悪に最悪が重なってこうなったのだろう。
そして原因は、確実に俺。
別れを切り出す前、ヤツはよく仕事の事でくってかかってきた。







―――――――……スカル達みたいに器用に仕事こなせないし…







瞬間、頭の中で弾き出された人物。

まさかアイツ――――――…




「ちょっと出てくる」

「えっ、あの報告書は…」



焦る部下を置いて、バイクのキーを取った。
全く彼は何をやっているのだろうか。



(…くそっ、馬鹿め)



誰がとか、関係ない。
結局のところ彼だけではないのだ。
己も、相当馬鹿だった。
時はもう満ちた。
本人達の知らない所でスクスクと育った愛は、もう溢れんばかりである。


スカルは身軽にバイクに乗り込み、アクセルを握る。
裂けていく夜風は少しだけ冷たい。
真夜中の道路は、やけに静かでスカルの乗っているバイク音のみが響いていた。
田舎というのはありがたいものだ。
こうして夜中に出ても誰にも迷惑がかからない。
勿論、誰もそこに居合ないからなのだが。
それにしても苛つく。
スカルは舌打ちしそうになるのを押さえた。






『来年の記念日には、二人で海に行こうね!』





きゃふ、とどっかのアホが楽しそうに言ったから、ちゃんと休みもとってあるのに。





(アンタが倒れてどうするんだこの馬鹿!)



もう、頭で考える事は放棄した。
綱吉という感情マシーンと付き合うには、こちらも感情で応えなければならないのだ。
肝心な事を忘れていた自分を殴り飛ばしたい。








(貴方から授かり得たものが、貴方を求めて騒ぎ出す)



嫉妬だなんて、するわけないと思っていたけど。
所詮お互い、愛に囚われた恋人同士だ。

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