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□倦怠期2
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君の恋人が浮気をしたよ、
と唐突に言われた。
ボンゴレのランキング狂に。
ヤツとは偶々パーティで会ったのだ。
共通の知り合いがいた。
それだけ。顔は知っているが、話したことなど一切なかった。
別に構わないことだが、彼方が此方を嫌っている限り話し掛けて来ないのは当然だろう。そう思っていたのだが。
初めて交した台詞がこれだ。
「君の恋人が浮気をしたよ」
「…で?」
「でっ、て。何?驚かない訳?」
「驚く理由がないからな」
「ふぅん。やっぱり倦怠期になっちゃうと、別にどうでも良くなっちゃうのかな?ま、ツナ兄は君が居なくても楽しそうにやってるけどね」
んふふ、と笑ったソイツを殺してやりたいとは思ったが、如何せん場所が場所だった。
マフィアのパーティだからといって、むやみやたらと血を流していいという訳じゃない。
それにこのパーティの主催者はカルカッサのスポンサーでもあるから、下手な真似は出来なかった。
そしてこのランキング狂は彼のいわゆる「専属占師」みたいなもので、ランキングから得た知識により何処と契約を結んでいくかを決めているらしい。
つまり、この主催者がデカい顔をしていられるのはこのランキング狂のお陰、と言うわけだ。
何を馬鹿な事を、と思うかもしれないが、ヤツに頼る業者は少なくない。
それにボンゴレがバックにいるとなれば、尚更。
――……ボンゴレ。
このランキング狂は昔からやたらとボンゴレ10代目に甘え可愛がられてきた。
コイツの何処に可愛がる要素があるのかは知らないし決して知りたくもないが、現ボンゴレのボスは馬鹿みたいに子供が好きだったから、という理由もあるのだろう。
昔からの馴染み、というのもあるだろうし、別に気にする事もない。
浮気だなどと、そんなざれごと。
「ま、信じるか信じないかは君次第だけどさ」
「何が言いたい」
「あー…そうだなぁ。僕君取りわけ嫌いだしなぁ」
「用が無いなら俺の前から消えろ」
「はは、用がなけりゃ君に話し掛ける事なんか生涯かけてなかったよ」
つくづく腹の立つ男だ。
目障り極まりない。
ボンゴレはよくこんな生き物を手の内に入れておけるな。
腹が立つからといって表情を崩すことはしない。
崩す意味がないし、崩したらヤツが喜ぶだけだ。
だが、流れ出す殺気は止めようとは思わなかった。
別に構わないだろう?
こいつも、周囲を煽るくらいには目立つ殺気を放っている。
大した事はない。
コイツが戦闘向きではないことくらい分かっている。
それにどんなに頭がキレようと変な力を持っていようと、所詮は人間。
アルコバレーノに敵うヤツなど存在しないのだ。
ただ、一人を除いて。
瞬間、ふいに彼の顔が浮かびあがった。
もう何ヵ月会っていないだろうか。
いつもと同じ位の会えない時が流れているだけなのに、今回は少しばかりキツいものがある。
確かな線が、不安定になったのもあるだろう。
会いたいけど、会えない。
会ったら確実にまた喧嘩をする。
喧嘩別れなんて最悪な事はしたくなかった。
綱吉も、凄い不機嫌な顔ではあったが、承諾のサインを出したのだ。
―――……浮気。
もしそれが真実だとしたら。
らしくない不安や焦燥にかられ、思わず舌打ちをしたくなるのを堪えた。
どうでもいい、別に構わない。そんなのは所詮ウワベだけに過ぎない。
とっくにそんなものは気付いていた。
認めたくないだけだ。
それに、綱吉が本気で人を欺けるようなヤツではないことは分かっている。
綱吉はほとほと頭を使う事が苦手だった。
お世辞にも言えないほどだ。
ただ、今はとてつもなく情緒不安定なだけなのだ。
ボンゴレの活躍をみる限り、仕事面に支障はない。
しかしそこに安心出来る要素は何ひとつとして無かった。
仕事とプライベートでの彼は恐ろしく相反しているのだから。
本当は繋ぎ止めたい。
けれど、そうもがけばもがく程この手をすり抜けて行くのが目に見えて分かる。
だから感情は嫌いだ。
事を上手く運ぶ上で、邪魔でしかない。
「いい加減はっきりして欲しいんだよね、僕としてはさ。ツナ兄の憂鬱そうな顔なんて見たくないんだ」
更に殺気を鋭利なものへと変えて、ソイツは笑って見せた。
何も知らない癖に。
否、何も知らないからこそ。ヤツはこうして己に話し掛けたのだろう。
知識もないヤツが手を出せば、事態は余計にややこしくなる。
「俺の知った事じゃない」
どんなに綱吉が憂鬱そうだろうと、終わらせる訳にはいかないのだ。
だから己は時間が必要だと感じた。
会えない時間が、愛を育てるなんて馬鹿げた迷信。
今更信じられたものではないけれど。
(それでも君をここに繋ぎ止めておきたくて)
狂気という名の束縛は、最後の最期の一手奥の手。