□決戦前日にて、
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まさか。
まさか自分達が受かるとは。



コロネロとラルは公民館前の掲示板の前に立ちすくんでいた。
書類選考が通ったのはまぁ分からないでもない。顔が良いのは自覚している。
でも、まさか一次試験が通るとは。
誰が予想しただろうか。



「お前、最後の質問に何て答えたんだ」

「ヘドが出るほどで、なるべくなら顔を合わせたくねぇ位に嫌いだぞコラ。テメーはどう答えた」

「もし地球で最後の男だとしても男とは見なせない、寧ろ空気に流れるチリ以下。と」



お互いに言わせておいて、空気が一気に冷めていく。
涼しい天然冷房だとかそんな呑気な問題ではない。
北極、いや、南極。ツンドラ気候だ。



「お、コロネロとラルだ」

「!ツナ、」



コロネロが纏っていた冷気を瞬時に消した。
綱吉はいつもの呑気さで2人に近付いていく。
それを後ろから眺めていたスカルは、馬鹿はいいよなと綱吉を見る。
ふと、コロネロと目が合った。
目から殺気が出ている。何て分かりやすい人なんだろう。
今は余り関わりたくない。
スカルにとって、コロネロの恋心なんざどうでもよく、今はこの勝負に勝てるかどうかの方が大切だった。
なんせ勝ったらリボーンの鼻をポッキリ、なんてことになるやもしれない。
しかし―――…それは多分コロネロが静かにしていたらの話だ。
もし彼の感情が大爆発してスカルに当たったりした日には、リボーンがどうのとか言っている場合ではないだろう。
今一人でコロネロと接触しない方が良いのは目に見えて分かっている。

だから、今あまり関わりたくない。
だから、綱吉を連れてきた。

コロネロをラル・ミルチがフォローするとは到底思えない。
だが綱吉がいたら別。
誰もスカルには手を出せないのだ。



「2人とも名前あった?」

「あぁ。ツナも載ってるぜ」

「えっ、何処?」

「ここだ。ツー子ってツナの事だろ?」



ラルの言葉に、綱吉は渇いた笑いを漏らした。
沢田綱子、通称ツー子。
沢田綱吉とはイトコ同士。
そんな設定だ。
明らかにやる気がないので、綱吉が考えたネーミングだということが分かる。
スカルも一応綱吉を怒ってから自分も考えて見ろよ!とか反論されたので考えてみたものの、まったく思い浮かばなかった。
故にツー子で通したのだ。
イモいけど。



「結局、全員受かってる」



二次試験を受けられるのは3組のみとなる。
つまり、見事に3組勝ち抜いて残ったのだ。
多分市長のご要望だったのだろう。
あの美しい4人とビアンキが見れるとなれば、遠かれ近かれ人は集まる。
そうなればどんどんアウェイになっていくのは綱吉だった。
こんな特上人種の中に中の下である女(仮)が一人。
逆風の嵐だ。
スカルの評価も下がるかもしれない。
ごめんねスカル俺なんかと、と言った所でどうにもなるわけでもないが、スカルは別に気にした様子もなく寧ろ謝る時間があるなら女らしさを追求しろと無茶なことを仰った。
優しいのか何なのか、イマイチよく分からない。



「今回は最終予選、どんなことするんだろ」



ポツリと呟いた綱吉の言葉に3人が反応した。



「去年は『ハモリ歌合戦』と『パズル組み立て競争』と『告白シュチュエーション再現』だったな」

「最後が有り得ねぇぜコラ」

「シュチュエーションもなにも、付き合ってないんだから勝てるかどうかはほぼ演技力にかかってますね」

「勝ちたいのか、お前」

「ええ。勝った暁にはリボーン先輩の鼻がポッキリ、なんてことに」

「いや、ならねぇだろアイツに限って」

「…夢くらいみたっていいでしょう」

「夢のまた夢だな。諦めろスカル」



ラルとコロネロがうんうんと頷き、スカルにドンマイと軽く返した。
思っても無いことを言えるようになった辺りは、2人共成長したと思える。
なんせ昔は思った事を全てを口に出していた為、かなりのイジメっ子にまで登りつめていた。
綱吉とスカルもその犠牲者だ。
マーモンとリボーンに至っては気にする以前にラルとコロネロにつっかかり乱闘、というパターン。
全員同じクラスになった時は、毎日毎時間学級崩壊に陥っていた。
あの時の担任には迷惑をかけたと思う。
一体何人変わったっけか。
小学生というのは残酷である。

と、まぁそんなことはどうだっていいんだ。



「勝ったら温泉旅行ペア宿泊券かぁ。スカルの両親にでもあげる?」

「母親が忙しいだろうからな。行けるか分からん」

「そっか。じゃあお父さんとスカルで行けば?」

「…勘弁してくれ」



あんな父親と行けるかウザい。
そう呟いたスカルに、だよねー父親と2人とか俺も絶対に無理無理、あははー。と綱吉は呑気に返していた。
打って変わってコロネロは父親と仲がそんなに悪くないので疑問符を飛ばすばかりだ。
そんなに嫌なものだろうか。そう思って隣を見れば、ラルがヤケに頷いていた。
あぁ。そーいやコイツも親父と仲が悪かったな。



「ちゃおっす」

「ぐぇっ」



いきなり後ろから腕を回されて綱吉はもがく。
それをムッ、とした表情で見つめるコロネロに気付き綱吉は首を傾げた。
多分後ろにいて、自分を羽交い締めにしているのはリボーンだ。
花の良い香りがするし、そもそも声がリボーンだった。間違いない。

コロネロはリボーンと喧嘩でもしたのだろうか。
だとしたら口を挟むべきじゃなさそうだ。
基本綱吉は物臭だった。
人間関係なんて一番ややっこしいし面倒臭い。



「お前ら受かったみたいだな」

「不本意だけどな」



綱吉を腕の中に納めつつ、リボーンが楽しそうに口を歪めた。
リボーンは人を煽るのが好きだし、普段の冷静さを捨てて喧嘩という名の抗争を始める事がよくある。
そしてそれによく釣られるコロネロなのだが、今日のそれは何だかタチが悪い気がする。
嫌だなぁ、と顔を歪めた綱吉は、リボーンの腕をつねりあげた。



「いてぇじゃねーかダメツナ」

「うっさい」



この妙な空気から逃げたい綱吉は、自然と傍観者であるスカルの元へと駆け寄った。
すると更にコロネロの顔が険しいものになる。
なんだってんだ、一体。

何も分かっていない綱吉に、スカルは心の内で溜め息を漏らした。
なんという悪循環。
コロネロが嫉妬するのは綱吉を好きだからだ。それなのに綱吉はその嫉妬の中に含まれる負の感情を感じとり逃げて行く。



「本番は明日か。ま、精々頑張れよ」

「誰が」

「即効落選してやるぜコラ」



ケッ、とそう吐きすてたコロネロとラルを見てリボーンはクツリと喉を鳴らした。



「温泉2人で行けるチャンスなのにな」



誰と誰が、とはあえて言わない。
コロネロとラルの瞳が一瞬輝いた気がした。
リボーンはそれを見て楽しそうにクク、と更に喉を鳴らす。
まったく分かりやすい馬鹿共だ。


そして綱吉に視線を合わせる。



「ツナ、テメーも頑張るんだぞ」



チラリと綱吉の側に立つスカルも一応確認しながら、リボーンは綱吉に言葉をかける。
綱吉はそれにコクリと頷く。



「スカルが居るから、へーき」



へへ、と照れながら花を飛ばした綱吉に、スカルは頭を抱えたくなる。
この時空気が歪んだという事実を綱吉が知る日は来るのだろうか。

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