□二人乗りにて登校
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日差しが強い。
朝顔が朝露を吸収して、元気に咲いている。
太陽と会話をするような、健気な上向き加減。
綱吉は扉を開けて顔を歪めた。



今年の夏は本格的な暑さに見舞われるらしい。
「先日梅雨明けが発表されました」と楽しそうにテレビで話していたお天気お姉さんが、そう言っていた。
毎年言われている気がするけれど、確かに地球温暖化というのは深刻化しているらしい。
日差しの下に出て、肌がピリピリと痛むようになった。
これには流石に、お馬鹿で疎い綱吉も今更ながらに焦りを覚えたようである。



「おせーぞコラ」

「ごめんっ!」



小学校高学年からの友達コロネロが、自転車にまたがって家の前で待っていてくれている。
毎日だ。
彼がこうして迎えに来るようになってから、綱吉の学校をサボる回数が目に見えて減った。
友達に迷惑はかけられない、という責任感からもあるのだろうが、綱吉からしてみればソレは建前でしかなく、実際は休むとコロネロがキツイお仕置きをするのでソレが嫌なだけだった。
痛い思いをするくらいならば、眠気を我慢したほうがマシだ。



「俺まで遅刻したら責任とれよ」



二、と笑う彼はどうしようもなく格好いい。
真夏の生き生きとした太陽の下、キラキラと金色の髪の毛が自己主張している。


こりゃモテるだろう。
それが自然の摂理ってもんだ。
ただ、性格が少しヤバい。


この事実を知っているのは綱吉だけだ。
いらない特権を持ってしまった。
綱吉が知っているコロネロの悪い所も、女子生徒にかかればとても良い長所にされてしまう。
例えば、人をおちょくるのが好きなところも「あのダメツナの世話を焼いてやってるわ!面倒見がいいのね」とか言われる。
乱暴で横暴な所も堪らなく素敵らしいし、確かに優しいとは思うけど日ごろの態度からしたらそのくらい当たり前だ、と感じたことだって「超絶優しい!」と称えられていた。
消しゴムを拾ってもキャー!小学校のころなんて、給食よそっただけでキャー!
そんなこと、他の男だってしている。


世の中は理不尽なんだな、と、小学生ながらに男子達は学んだ。
当のコロネロはというと「めんどくせー」だとか「うぜー」とか、あまり浮き足立つこともなく、それが又人気者になる秘訣だったみたいだ。
これには、男子も「コロネロってかっこいいよな!」だとか「友達になりたい」だとかを口々に話していた。
だから昔からコロネロの周りには人が絶えない。
綱吉もそのうちの一人だと自覚している。
コロネロからしてみれば、綱吉とつるむ理由はそれだけではないのだが。



「じゃあ迎えに来なきゃいいのに」

「そしたらお前寝坊すんだろ」

「させてよ」

「させるか馬鹿」



綱吉を乗せて、自転車は出発した。
生ぬるい風のなかを、自転車は行く。
汗がまとわりついてきて、ついでにシャツも肌に張り付く。
シャー、と軽快な音を立てて坂を下っていく。
土地が元々そうなのだ。
山の中にある学校。
上り坂、下り坂の繰り返し。
最後に長い下り坂を下って、学校に着く。
四方八方から聞こえてくる蝉の声。
反響して、何がなんだかわからない。



「到着〜」

「とっと降りろコラ」



自転車置き場に自転車を置き、2人は教室へと向かう。
下駄箱で上履きに履き替えるときにふと見てしまう相手の上履きの大きさ。
ちっせー、とコロネロが挑発するように呟いて、綱吉が簡単にそれにのる。
まるで鬼ごっこのように廊下を走って、教室へ。
教室の前で息の切れた綱吉が、息を落ち着かせるのを待つ。
勝ち誇ったように笑えば、素直に顔を歪ませた。
面白い。
ホームルームはもう始まっているようだ。
中から、教師の声だけが響いている。



「アウト」とコロネロが口パクで伝えると、綱吉は不機嫌そうな顔のまま「ゴメン」とこちらも口パクで返した。

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