□恋とはどんなものかしら?
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真っ白なシーツに自ら絡まって、グダグダと思考を巡らす。
恋だろうか。
してしまったのだろうか。
巷で噂の恋とやらを。

しかしこれを恋、といったら余りに簡素な気がする。
そもそも恋とは何だ。
辞書なんかじゃ分からない。
言葉にしてしまえば、全ては重みを無くすから。

白いシーツは考えを消すどころか、どんどん深いものにしていった。
最悪だ。
馬鹿みたいな独り言が脳に流れる。
体はだるくなっていくばかり。



「熱か?」

「……………」

「おい、聞いてんのかコラ」

「………今、話したくない」



その気性とは裏腹に、静かに客はやってきた。
今、一番見たくない顔。
今、一番聞きたくない声。



「そんなに体調悪いのか。貧弱だな」



誰のせいだと思ってんだ馬鹿ヤロー。

シーツを退かされ、淡いオレンジの光が視界を包んだ。
そこに割り込む、金色の髪と空を飲み込んだ瞳。
腕で慌てて瞳を隠せば、無理矢理腕を捕まれた。



「…何だよ」

「別に」



上の階にある音楽室から、音楽が聞こえてきた。
呑気な曲だ。
オペラだろうか。
何処かで聞いたことがある。

しかしまぁ目の前の男とは、まったくの不釣り合い。
それでも午後の柔らかな光が思ったより優しくて、でもこの男に似合っているから嫌気がさす。



「嫌いだよ、お前なんて」



不意に出てきた言葉が、相手よりも自分を傷付けている気がして少しだけ呼吸が苦しくなった。



「そうか」

「そうだよバカ。退けよ」



シナシナで力の無い声が、宙に浮いては消えていく。
彼は押さえつけていた俺の腕を解放した。
離れていく体温に、眩暈を感じる。
音楽が、遠くに聞こえる。
全てをこの曲で掻き消せればいいのに。
この光の様に淡く優しい女性のソプラノ。
甘くのびて行くそれは、空気に浸透していく。
何語だろうか。



「ツナ」



ぐったりとしたまま、上を向かされた。
彼の顔は、逆光で見えずらい。
ふと、包み込まれるように頬に手をそえられた。
大きい。
いたたまれなくなって眉間に皺を寄せても、相手は知らんぷりを決め込んだまま。



「――――――…コ、」



小さく口を開いて彼の名前を呼ぼうとした瞬間、口を塞がれた。
驚きに目を見開く暇もなく、柔らかな感触。

何度も何度も、ついばむ様なキスをした。
優しく噛まれたり、舐められたり、吸われたり。
心地よくて、何も考えられなくなって、瞳を閉じればそれは徐々に激しさを帯て行く。

腰を片手で抱かれて引き寄せられる。

あ、舌が入ってきた。



「………ん、」



流されるままに、体を委ねた。
もう、どうでもいい気がする。
只、この行為自体はきっと無意味。
こんなの、恋には入らない。
分からないけど。
、分からないから。



「………ばか」



その言葉を合図に、コロネロは愉しそうに笑って俺の喉に舌を這わせた。









(恋とはどんなものかしら?)

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