□テリトリー
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寄ってらっしゃい見てらっしゃい!
世にも珍しい曲芸をする蛸ですよ〜!



何処かで聞いたような声に、リボーンはふと足を止めた。
上海からウズベキスタンへ渡って、アメリカはミシシッピ州を一応一周。
そんな長期の仕事を終えてイタリアへ帰る途中、愛する生徒の『本場のマカロンが食べたい』発言を思い出し、足を運んだフランスで。



「………………何をしてんだテメーらは」

「「うげっ」」



民族衣装みたいな良く分からない服を着た生徒と、自慢のペットを商売道具にしている敵の軍師が居た。

怒るだとか、もうそんな次元じゃない。
仕事を放り出して何やってんだ、だとか聞きたいこともある。

だけどその前にリボーンは大きく溜め息をついたのだった。





「現状を簡潔に説明しろ」



場所を変えて、裏通りのカフェ。
適当に入った割には中々洒落た所だ。
年期の入ったアコーディオンを弾いているオジイサンがヤケに可愛らしくて、綱吉はそれとなく眺めていた。



「オイダメツナ。テメーに聞いてんだぞ」



怒りを越えたニッコリもしなくなる程に怒ったリボーンは無表情だ。
怖い。
怖いけど綱吉の隣にはスカルがいた。
安心の種だ。
2人で居れば何とやら。
ただ、リボーンから発っせられる殺気がとんでもない事になっている。



「…2週間の、休暇を取ったんだ」

「それで?」

「丁度スカルもそれくらい休み取れたって言ったから、ヨーロッパお楽しみツアーを組んで」

「そのお楽しみツアーっつーのはアレか?職業体験も兼ねている、と?」

「だからぁ…アレにはれっきとした訳があって」



ぶーたれた綱吉は足をブラブラさせながらリボーンの質問に受け答えしていた。
さっきからリボーンの目を見ようとしない。
それにイッラァ!ときたリボーンはフォークを綱吉の喉元へと突き付ける。
スカルは嫌な顔をしながらそれを見ていた。


別に綱吉がフォークで刺されそうになっているからではない。
自業自得だ。
では何が嫌かというと、この状況がである。

恋人を横に、その家庭教師(しかも恋敵)を前にして飲む紅茶は、店には悪いが美味いものではなかった。
そして一番厄介なのが、この2人が現在進行形で喧嘩をしている所だ。
喧嘩らしい喧嘩ではないが、激しいオーラとオーラのぶつかり合いだ。
綱吉も負けては居ない。


何だか、家でイチャついて居た所に偶然居合せちゃったお父さん〜そして娘と父の全面抗争〜みたいで最悪だな、とスカルは思った。
自分の立場はきっと、何のフォローも出来ない彼氏だ。
したらしたで彼女の父親に怒鳴られ、怒鳴られたら怒鳴られたで彼女が父親を怒鳴り飛ばすという、最悪なループ。

まぁ怒鳴らないだけマシだけど、この空気はいたたまれない。



「オイ、パシリ」



いきなり自分にベクトルが向いて、スカルはびっくりした。
リボーンといると心臓に悪い。
交際許可を得てないこともあって、更に。



「テメーが説明しろ。この具図じゃ話にならん」

「はぁ…、」



具図?
綱吉はボソリと呟いてリボーンを見た。
何か声が低くて怖い。
多分、綱吉がここまでブチ切れているのは朝食と昨日の夜食を抜かしたからだろう。
綱吉は不本意で食事と睡眠を取れないとイラつく傾向にある。
まるでガキだ。


スカルは綱吉の太股を軽くツネって綱吉を黙らせた。
取り扱いには慣れている。



「最初は只の旅行のつもりだったんです。イタリアを軽く散策した後にウィーンへ渡り、その後バルセロナなどを転々としてパリに着きました」



でもここはパリじゃない。
都心を離れた場所にある、小さな村だ。
有名で美味しい西洋菓子屋がある以外は、何もない。



「ちょっと待て。どんだけ観光したかは知らねぇが、テメーら本当に今現在で2週間の休暇中か?」



嫌な部分をついたリボーンに、綱吉はビクリと肩を揺らした。
それはつまり…



「過ぎてんのか」



はぁぁあ、と大きくスカルは溜め息を吐いた。

そうなのだ。
イタリアを出て3週間になろうとしている。
仕事は、ほっぽりっぱなしだ。
連絡も入れてない。


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