□石畳の上、月の光を浴びて
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石畳の上で月が微笑んでいた。
それは甘く香る優しき夜。


逢引はいつだって闇の中。
死神の出かけた後、海を飲んだ瞳を持つ少年が帰ってしまった後が丁度いい。
そうすれば、深く沈んだ紫が淡く放たれた月の光に包まれながらやってくる。
裏路地には、行く当ての無い野良猫達しかいない。
不自然に作られた自由だけが生きている。


「お待たせ」

「遅い」

「だって。獄寺くん、しつこかったんだ」

「そろそろごまかしきれなくなってる、か?」

「そうだね、獄寺くんだけじゃない。皆が皆警戒してる」

「お前は大切な王だからな。その心、どちらかと言えば姫様でも守るような感じだが」

「はは、大げさ。スカルだって、あちらからしてみれば大切な息子さんに近いんじゃないの?」

「だな。だが束縛は気に食わない」

「その様子だと、そっちも?」


静かにスカルは頷いて、綱吉を見つめた。
綱吉は妙に真剣な顔をしているが、実際の所カルカッサ自体を恐れているわけではないのだろう。
認めたくはないが、カルカッサなぞボンゴレの足元にも及ばない。
綱吉の意思一つでどうにでもなる。
じゃあ問題なのは何だ。
そんなものは愚問である。
綱吉が恐れているのは、その結果によって誘い出される死神のことだ。
ここまできてバレていないと言ったら嘘になるだろう。
ギリギリで繋ぎ止めているのだ。
ただ、そろそろ。
今は遊んでいるだけだが、収集がつかなくなったらきっと壊しに来る。
言うことを聞かない玩具を、彼がお気に召すことは無い。


「ここまで来るのに、約三十は殺った」

「追っ手か。それはまた随分と愛されっちゃっているご様子で」

「アンタほどじゃない。獄寺とやりあったんだろ?」


微かに香るものが、全てを物語っている。
それと、白い手首に映える掠り傷もだ。


「もう後に引けないかもしれない。だから今日は二択選一」

「へぇ」

「このままサヨナラ」

「それか一緒に、だろ?」

「ご名答。さすがスカル」

「馬鹿でも分かる」


困ったように笑う綱吉にキスを落として、スカルは空を眺めた。
いい月だ。


「死ぬ時は一緒だ。お前だけ残すなんてヘマはしない」

「大丈夫。もしもの時は舌噛み切って死んでやるから」


静かに2人は微笑んだ後、手を繋いで駆け出した。
分かりきったエンディング。
それでも恐れるものは何も無い。
だから2人は手放した。
優雅に響く、今日までの日を。


石畳の上で月が微笑んでいた。
それは甘く香る優しき夜。


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