□今日という、素晴らしき日を
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星が瞬く夜なのに。
あぁ…空が、


「すんげー曇ってる!」


ぎゃは!と笑いながら、酔っ払った綱吉はコロネロにもたれかかった。

出会ってから10年以上経っていて、しかし恋人になってからはまだ間もないこの2人にとっては、今日はとても大事な日になるはずであったのにこの始末。


7月7日。
俗に言う七夕である。


夕方、雨が漸く上がったので少しばかり期待しつつ並盛にあるボンゴレの屋敷へと足を運んだコロネロを迎えたのは、何ともやる気が見れない綱吉であった。
手にはビール、机の上には枝豆を置き、中学からの親友である山本の野球談義を聞いている姿は、オッサンそのものだ。
顔は出会ったころより少し大人びただけなのに、成程精神はこうして知らない内に成長していたらしい。
とりあえず山本はコロネロに軽い挨拶をし、気を使ったのかは知らないが、鼻唄を歌いながら出ていった。
結局何だったのだろう、と首を捻れば、腕に綱吉が絡みついてきた。
体が少し熱っていて、髪からは石鹸の甘い香りがする。
シャワーでも浴びたのだろうか。
状況が状況なら準備万端であったのだろうが、残念ながら今の綱吉はただのオッサンだ。
色気はあるが、何かが決定的に違かった。
そんな綱吉に案内されたのがバルコニー。
何やら色々と日本を漂わせるセッティング(そりゃ日本なのだから当然なのだが)になっている。
そして冒頭の台詞へと戻るので、きっと綱吉は純粋に七夕を楽しみたかったのだと思われた。
笹は、見当たらなかったけれど。


「ここ最近、全く晴れないんだよー」

「まだ梅雨明けしてねぇからだろコラ」

「違う。七夕の話ね」

「あぁ、」


残念だなぁ、とビールを煽る綱吉は中々残念そうに見えない。
木のベンチに座り、足をブラブラさせる綱吉は、どちらかと言えばふてくされる子供の様である。


「何で笹置かねぇんだ?」


何と無く聞いてみたかったコロネロは、素直にそれを口に出した。


「だってさぁ、願い事とか見られたら恥ずかしいんだもん」

「…どんな願い書こうとしてんだコラ」

「やだよ、言わないよ」


にひひ、と笑う綱吉が憎たらしいんだか可愛いんだかよく分からないまま、コロネロは綱吉の頬をつねる。
フニフニとして、柔らかい。
噛んだらどんな感じだろうかと思うが、綱吉が泣きそうなので止めた。
酔っ払いを泣かせたら収拾がつかない。
本人の気の済むまで泣き続けるので、本当最悪だ。


「コロネロ」

「何だコラ」


服をチョイチョイと引っ張られて、彼の頬から視点を彼の瞳に合わせれば、思ったよりもそれは近くにあった。
そして視点がボヤけた時点で、綱吉がキスを仕掛けた事が分かる。
そのまま腕を綱吉の背中に回して、コロネロはそのキスを深い物にした。
ビールの味さえしなければ最高だったかもしれないけれど、もうどうでもいい。


「ん、」


チュ、チュと最後に軽い物を交して綱吉はコロネロに寄りかかった。
昔はあんなに小さくて可愛かったのに、今ではこんな立派になってしまった。
そもそも昔の自分達は、まさか恋人同士になる日が来るなんて思ってもみなかっただろう。


「誕生日オメデト、コロネロ」


へらへらと緩く笑う恋人をどついて、コロネロはそっぽを向いた。
綱吉は綱吉でそれが照れ隠しだと分かっているので、絡ませた腕を外さないし、緩んだ顔も戻さない。


「言うの遅ぇぞコラ」

「期待してたの?」

「ち、ちげぇよ!!」

「いででで!!ギブギブ!!」


絡まった方の腕を取り、捻り上げられて綱吉は悲鳴をあげた。
あげてすぐ離してくれるあたり、コロネロも丸くなったと思う。
リボーンなんか未だにアレだ。


「ケーキ、冷やしてあるから後で食べよう。はい、ビール」

「テメーはそればっかだな。もっと洒落たの飲まねぇのかコラ」

「日本人はビールが一番なんだよ!」

「発泡酒だろ。それにビールの本場はドイツだコラ」

「知ってるよ!だからいいんだって別に!ホラ、カンパーイ」


手渡された缶ビールを開ければ、プシュッと爽快な音がした。
それを喉に流し込めば、心地好い刺激が伝わってくる。


「俺達は、こうしてちゃんと仕事して、ちゃんと程々に付き合ってるから」


幾分か時間が経って更にグダグダになった時、ふと綱吉が呟いた。
コロネロは枝豆を食べながらその話に耳を傾けてやる。


「だから、大丈夫かなぁ」


綱吉が漏らした笑みが思ったよりも儚かったので、コロネロは眉間に皺を寄せた。
織姫と彦星は余りに自分勝手すぎた為、こんな状況に陥った訳だが…。


「心配すんなコラ」


何なら死ぬまでご一緒コースでも構わないんだぜ?

そうニタリと笑う恋人が、やっぱりとっても素敵だったので、綱吉はちょっとだけ泣きそうになった。
所詮、堪らなく惚れているのだ。


「…生まれてくれてありがとう。生きてくれて、どうもありがとう。こんな俺に、付き合ってくれて、本当にありがとう」


コロネロにペコリとお辞儀をした綱吉の額に、チュ、と軽くキスを落としてコロネロは満足そうに笑った。


「どういたしましてだコラ」



雲の消えない空を見て2人で肩を寄り添えば、愛しさが何時もより膨らんで行く。

来年も、再来年も、ずーっと死ぬまで。
貴方と共に迎えられたら。


今日という、素晴らしき日を。

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