パロデイ

□兄弟ではない
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夏祭り。
もう暫く行ってない。
最後にあの世界に足を踏み入れたのは何時だっただろうか。


「スカルー?」


綱吉は自分の前を歩く少年に声を掛けた。
スカルは短気だ。
特にここ最近は、綱吉が他人といるとピリピリするようになった。
多分、あの風邪の一件以来。


「スカルースカルスカルスカルぅ〜スッカッル〜」

「うるさい!!!」

「っぎゃん!!!」


思い切り脛を蹴られて思わず顔面から倒れた。
砂利が顎に当たって痛い。
血も出ている。
近くからは、姿は見えないものの小学生の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
多分、公園のプールで遊んでいるのだろう。
よかった。
見られてなくて。


ふとスカルを見上げれば、ちょっと複雑そうな顔をしてそこに立っていた。
何処からか吹いてきた涼しい風が汗に濡れた体の熱りを冷やしていく。

はて、
と綱吉は思った。

彼が来て始まった愉快な夏。
もう八月に入って、今は巷の子供たちにとっては一番楽しい時期だろう。
綱吉は活発な子供ではなかったし、花火大会や祭なんかも家で過ごしている方が多かった。
知り合いに会いたくなかったし、何より一人で行くなんて寂しい真似はしたくなかったのである。
そうだ。自分と似た何かを持つスカルだから考えもしなかったけど、スカルだってちゃんと子供だ。
そりゃ馬鹿みたいに大人びてはいるけれど。
やはり遊びたいのではないだろうか。
特に海外から来ているのだし、日本の祭に興味が沸くのは当然である。


「スカル、祭行きたいか?」

「勘違いするな。あれはお前が変なヤツに捕まってたから気を利かせただけだ」

「変なヤツって…まぁ、うん」


そこは否定できない。
確かに獄寺は綱吉から見て変なヤツであったから。

綱吉は腕に力をいれて体を持ち上げる。
掌もヒリヒリと痛い。
擦り剥いてしまったようだ。


「ごめんな。俺、スカルが祭のチラシ読んでんのは知ってたけど、全然気付かなかったや」


スカルは眉間に皺を寄せて、黙ってしまった。
すねている。
最初に比べれば、随分打ち解けられたし、随分人間らしさが現れてきた。
綱吉はえへへ、と笑ってスカルの手を握った。
いつもはすぐ振り払われるのに、おとなしい。
今更スカルが遠慮するなんて、どうかしている。
綱吉の中でのスカルは、自由で我儘でガキ大将みたいに己を馬鹿にしてくれるクソ餓鬼であった。
だから、本当に今更なのだ。らしくない。


「行こう、祭!」


するとスカルは綱吉の顔を見返す。
複雑そうな顔はそのままだ。


「…いいのか?」

「うん!ま、知り合いに会うのはちょっと恐いけどさ。今年はひとりじゃないから大丈夫!それにお前、獄寺くんに言っちゃっただろ?」

「まぁな」

「んじゃ、行かないと!」


綱吉は笑いながらスカルの手を引いて歩いていく。
目指すは商店街。
本日八百屋の特売日。


「日本の祭はね、いっぱい屋台でるんだぞー!リンゴ飴にチョコバナナ、お好み焼きに焼きそばに、タコ焼きなんかもあるんだ!」

「タコ焼き…?」

「うん!蛸入ってんの!あれ、スカル食べた事ないっけ?美味いよ〜」


スカルはギョっとした。
相棒が脳裏に浮かんだのだ。
彼は今、綱吉の部屋に住み着いている為、今は殆んど使われていないスカルの部屋の風呂場の浴槽の中に住んでいる。
毎回水も変えてやってるし、快適に過ごしている訳だが、綱吉はこの事を知らない。
つまりは、スカルが蛸料理が苦手な事も知らなかった。

でもそんな事は言えない。
綱吉が珍しく積極的に参加しようとしているのだ。
これが自分の為だと言うことには気付いていないスカルだが、それでも彼は言えなかった。


とりあえず今は、この笑顔を見ていたいのだ。

祭に行きたいと言い出せなかったのも、綱吉を何だか困らせたくなくて、言う気が失せてしまったからだった。
あの野球応援の件で、綱吉の嫌がる顔はスカルの中で若干トラウマになりつつあった。
もうあんな顔なんて見たくない。
自分が我儘を言って困らせるのとは、訳が違うのだ。


「……?」


最近感じる、よく分からない何か。
切ないようでいて、とても満たされていくような感覚。
そうかと思えば、怒りを含む時もある。

スカルはこの感情の名前を知らない。
多分未だ、知る必要もないと告げてくる何か。


「お下がりの浴衣、貸してあげるなー」

「遠慮する」

「なんだよ!せっかく何だし遠慮すんなって!」

「…アンタ浴衣の着方解るのか?」

「なっ!できるよ!!なめんな!」

「目ぇ泳いでるぞ」


手を繋いだまま歩く2人を見て、近所のオバサンは微笑んだ。
あらまぁ、仲の良い兄弟だこと。


「…ていうか絆創膏買っていい?あ、顎が…」

「我慢しろ」

「…鬼、ってててて!つねんなよ!!」


仲が良いのか悪いのかは定かではないが、とりあえず2人は幸せだった。
しかしそれに気付いていない2人は、ずっとそこにとどまっている。

この夏が、終わらなければいいのに。


そう心のどこかで、思いつつ。

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