パロデイ

□中々に
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ありえねぇ。


リボーンは保健室のベッドの上で涼みながらポツリ。
本音を溢した。



「何がありえねぇんだよ」



成人向雑誌を片手にシャマルはリボーンに言葉だけを投げ掛ける。

保健室は校舎の裏側、つまり林向きに配置しており、比較的薄暗く涼しい場所だった。
物好きな生徒によってここらに集結している生物室、保健室、視聴覚室には幽霊が住み着いているとかいう噂が定着させられていた。

しかしまぁそんなもんにも屈しないのがシャマルとリボーンだ。
そもそも彼等は抱けない女は認めないし、撃てない標的は信じないタチなのである。



サワサワと窓の外から漏れ聞こえてくる葉が風に吹かれる音に耳を傾けながら、リボーンは続けた。



「沢田綱吉だぞ。分からねぇ」



肩から降りたカメレオンが、やけに白いシーツの上で体を丸めている。
リボーンは彼の頭を撫でながら目を細めた。

リボーンはイタリア全土を牛耳るマフィア・ボンゴレのドンである9代目の友人だ。
元々リボーンは人付き合いがいい方だし、人間そのものは嫌いじゃない。
確かに愚かな選択をしては馬鹿なしでかしをする者もいるが、その暖かみと本来もっている優しさや愉しさにはいつも驚かされている。
つまりは退屈しないのだ。

だが、沢田綱吉は違った。

肩書きは初代ボンゴレの血を引き継ぎしニューフェイス。
しかし百聞は一見にしかずだ。
昔の人間は面白いことを言う。
確かにその通り。
生きた伝説のような彼の姿を見たものは、多分リボーンと家光と深く関係をもっている者(例えばボンゴレ門外顧問チーム)しか居ないだろう。
以前ラル・ミルチという家光の部下であり同胞に綱吉に会いに行くという主旨を伝えたところ、実に羨ましそうにしていた。
それもそうだ。
リボーンは『生きた伝説』に会いに行くのだから。
当時の意気揚々としていた自分を思いだし、リボーンはこめかみに指をあてた。
後悔の波がプライドをも飲み込んでいく。


何でこの俺様がこんなアパシーの代名詞みたいな堕落した最低人種を9代目のところまで連れていかなければならないのだろうか。

いや、己が言い出したのだから確実に自業自得ってやつなのだが。

あーでもやりたくねぇ。
でも決意を撤回するのも許せねぇ。


リボーンはまさにジレンマに陥っていた。


一方、シャマルはシャマルでこんなグダグダなリボーンを見るのは初めてだった。
あのビアンキでさえも寛大な心で愛人として招き入れたリボーンだが、沢田綱吉には敵わない。
むしろ生理的に受け付けないとかそういう問題にまで発展しかけている。
寧ろ会話もしたことがないのに、反があっていないことには感動すら覚えた。



「あいつが生きて存在している意味が見い出せねぇ。知ってるだろシャマル。俺は嫌いなものが許せないタチなんだよ」



ははは、とリボーンはハキの無い目で笑い、懐から拳銃を取り出してクルクルとまわしていた。
この分だと、本気で綱吉を殺りかねない。



「9代目もそろそろ末期だな。あの腐れジジィ会いに行ったら行ったで孫の話を7時間以上してくれやがった。想像できるかシャマル?内5時間半は沢田綱吉の話題で後の1時間半はザンザスのことだったぞ」



あぁ…とシャマルは頷いてリボーンを見た。
その瞳には同情の色が浮かんでいる。
綱吉はまぁ可愛いげがあるガキだとしてもだ。
ザンザスの自慢には耐えられないものがある。
なんせ彼は可愛くない。
とっても可愛くないのだ。
いや、ほんと。
可愛いというよりは、完璧なるアレである。
顔だけはマフィアの鏡。
行動に至っては、ボンゴレを潰してのっとろうとするわでとんだ馬鹿野郎なのだが。
それをホカホカな顔をして語っている9代目を想像するのは容易い。
あの彼の暴挙を『反抗期』だの『やんちゃ』だのでくくれる9代目は確かに凄いお方であろう。

にしても、7時間も聞かされたのか。
そりゃ完全なる拷問っちゅーヤツだ。



「お前よく耐えられたな」

「あぁ。自分でも正直びっくりしてるぞ。まぁ何人かは負傷したがな」



つまり撃ったのか。

まぁ打倒だろう。
そんな状況に陥ったら、シャマルでさえナイフを手にとらない自信はない。



「だがお前、まだ綱吉に会って会話すらしてないんだろ?決めつけるのはよくねぇぜ」



綱吉の根っからの堕落ぶりを知っているシャマルは、リボーンに言葉を投げ掛けた。
だがつまらなくは無いという点では嘘じゃない。
確かに綱吉は、堕落主義でトンチンカンなヤツではあるが、現に惹き付けられている男たちが居る。
シャマルの従兄弟で、並中には通っていないものの近くの住宅地に住んでいる隼人でさえ熱を上げていた。
あの誰にも懐こうとせず、誰にでも暴力とメンチを放つあの彼がだ。
そして山本も綱吉の虜になっている。
彼の場合、かなりタチの悪い部類でだ。



「俺は、アレを面白いと取るぜ」



くく、と笑えば、リボーンは信じられねぇと表情を歪めた。

ほら、面白い。

あの完璧人間のリボーン様の表情までもを歪ませる。

嫌よ嫌よも何とやらだ。
本当は彼自身も気付いて居るのではないだろうか。
仕事と私事をきっちり分ける彼が、どうして此処まで混合されているのだろうか。
友人の為?
そんなものは表面上に飾られた理由である。



ふと、廊下に足音が響くのを聞いた。
この大雑把な音。
聞き覚えがある。

己がよく恋愛相談に乗ってやる少年のものだ。

ニヤリ、と笑うとリボーンがチラリと廊下を一見した。



「誰だ」



しかし手に銃を掲げていないところをみると、随分とやる気がないようだ。
否、この場合一般人相手に注意をする方のが馬鹿げていると判断したらしい。



「迷える子羊だ」

「は?」

「因みに先導者は沢田綱吉だぜ」



ほー。
リボーンはそう言うと、ベッドのカーテンを閉めた。



足音が近付いてくる。

あと、3歩くらいで此処につく。


3、

2、

1、



ピタリと足音が止まった。



シャマルはふぅ、と溜め息をつく。

同時に、扉が開かれた。



リボーンの気配はシャマルでさえ感じる事が困難なくらいに薄くされる。




「よう、青少年」




太陽が、長い雲に隠れた。

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