小説

□商店街事情
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『ドキドキ!以心伝心対決』はなんと三組が三組共全問正解で幕を閉じた。
三問目も四問目も、五問目も。なんとも呆気ない物であったのだが。



「凄いスカルそんなに俺の事を想っててくれたなんて!」

「アホかアンタは分かりやすいだけだ有り得ない」



スカルに実は(友情的意味合いで)凄く想われてるんじゃなかろうか、と喜ぶ綱吉に絶対零度の声色で否定してスカルは鼻を鳴らす。
綱吉は若干涙目になって切なそうに遠くを見た。
そんな、そんな。
そんな全否定しなくたって。有り得ないって酷い。

一方でスカルはというと、ヒヤリとしていた。
ジョークでもキツイ。
想っていた、だなんて。
的中しすぎて思わず焦り、綱吉を邪険に扱ってしまった。
しかし大丈夫だろう。
だって綱吉は雑草並に強い。
それは幼馴染みに限っての事だが。普段から辛辣な言葉を言われ、色々と鍛えられたに違いない。
慣れたとも言う。



「次は何だコラ」

「見る限り、料理に関係するみたいだぞ」



料理、と聞いてコロネロがウゲッと顔を歪めた。
ついでにその近くにいたスカルにもリボーンの声が届き、嫌な顔をして綱吉を眺めている。
しかし女性陣(内一人男)は至って問題ないといった表情だ。



「ラルの料理ってどうなんだ」

「一度だけ食べた事あるが酷いモンだったぜコラ。いつまでたっても吐気が止まらなかった」

「あー……あるもの手当たり次第に入れそうですもんね。リボーン先輩も毒サソリが誤ってポイズンクッキングを働いたら死にますね」

「残念だな、その心配はご無用だぞパシリ。ビアンキにはポイズンクッキングを俺に働いた時点で愛が冷めると忠告済みだからな」

「マジで残念だぜコラ」



本気で残念がるコロネロとスカルを無視して、リボーンは綱吉の呑気そうな顔をチラリと見た。
ラルとビアンキと、綱吉。
物凄く浮いているが、綱吉の料理はどうなのだろうか。



「パシリ、テメーツナの手料理食ったことあるか?」

「否、無いです。だから不安でしか無いんですが…まあ、ラルよりは幾分マシな物は作れる筈ですよ」



絶対。多分。きっと。
根拠なんてものはない。
自分を励ます為にスカルはそう思い込む事にした。
そんなスカルの横で、コロネロは少し安堵の息を吐く。
抱き枕にされた特権は奪われたが、手料理を出された特権は健在。
綱吉の得意料理はチャーハンだが、中々上手かった記憶がある。
そう、中々。

そこでコロネロはハッとした。
自分が一番不利であることに気付いたのだ。



「はひー!それでは第二ラウンド開始です!またまたマーモンちゃん説明お願いしまーす!」

「ム。第二ラウンドのゲーム内容は『愛妻!料理対決』だよ。彼女が指定されている品名と用意されている食材を駆使して調理。そして出来た料理を彼氏が全て残さず食べれたら勝ち。天国か地獄か。当たり外れの大きい対決になりそうだね」



指定された品名と、用意されている食材。
綱吉はゴクリと息を飲んだ。
どうしよう。
フォアグラのうんたらかんたらほにゃらら〜どこどこのなになにを添えて〜とか来たら。ヤバイ。
そんなものは現物を拝見した事すらない。
チャーハンや、頑張れば調理実習で作った品目は作れるが。
用意されている食材に至っては、何やら色々あるがインディゴの大きな布に隠されて何か分からない状態。



「それでは男性陣の皆さんは特別観覧席へ、女性陣の皆さんはキッチンへどうぞ!」



キッチンには色々な調理器具。パスタを茹でる時に使うヤツなどからして、イタリアンな感じなのだろうか。
ムムム、と、とりあえずそれを手に取り眺めている綱吉は審査員席の近くに出来た簡易特別観覧席を見た。
スカルの目が「食える物を作れ」と訴えて来ている。
綱吉は爽やかな微笑を浮かべながらそっと視線を反らしておいた。
無理難題にはもう目を瞑ろうと思う。野暮な事は言うな。



「ツナのヤローあからさまに開き直ってんな」



その一連を見ていたリボーンがスカルに呟く。
スカルは大きく溜め息を吐いた。
とりあえず、ポイズンクッキングは習得していない綱吉なので死に直結する料理を作る事は無いだろうが。
不安だ。果てしなく。
包丁で指をザックリ、なんて事もあるかもしれない。
そんなドッキリハプニングは必要皆無である。



「にしてもなんでラルは少しも動揺を見せないんですかね」

「多分自覚してねーんだろコラ」

「一番嫌なタイプだな」



こくり、と言ったリボーンも含め三人同時に頷く。
本人に聞かれていたら無茶苦茶怒鳴られ殴られるだろうが、でもそこは本当の事なので否定しようがなかった。
天然のポイズンクッキングだ。
変わってビアンキは二人を横にして勝ったも同然、という表情をしている。
ラルと綱吉が食える料理なるものを作れるだなんてハナから思ってもいないのだろう。
ビアンキは元々料理に関してはプライドが高い。



「それでは、これから作って頂く料理を籤で決めます!籤はせーの、で開けて下さいね!」



てこてこ、とマーモンが四角い箱を持って歩いて来る。どうやらあの中にこれから作らなければならない物が書き記してある紙が入っているらしい。



「手、突っ込んで」



ビアンキ、ラル、綱吉の順でボックスは回って来た。
綱吉は適当に手に当たった紙を引っこ抜き、手元に収める。



「じゃあ、せーの!」



パサ。開く。



「……オムレツ、と魚介類のスープ」



ラッキー!と綱吉は小さくガッツポーズをした。
オムレツならば以前作った事がある。
魚介類のスープも、なんとなーくベースをととのえてから魚介類を鍋にぶちこめば出来るだろう。
形式や作り方はともかく、スカルがまあまあ食べれる味にはなる筈だ。



「作る料理はビアンキさんが『鯛の生け作りとお吸い物』ラルさんが『ペスカトーレと前菜』、ツー子ちゃんが『オムレツと魚介類のスープ』になりました!制限時間はたっぷり30分!ではでは皆さん、頑張って下さい!はひー!それではスタートですぅ!」



ピィイイイー!と、開始の笛の音が鳴らされる。
スカルとコロネロは『どうかちゃんと食べ(られる)物が出てきますように』と願い、祈り、リボーンは他人事の様にニヤリと素で楽しんでいた。
そして、ラルと綱吉とビアンキは『よしっ、』と同時に心の中で気合いを入れ、手元にある包丁を取り合えず持ち、構える。

材料に掛けられたインディゴの大きな布が、商店街で唯一の手芸屋の田村さんと山崎バーバリーの山崎さんによって取られる時が来た。
田村さんは今年で78歳になるおじいちゃんで、山崎さんは嫁本気で募集中の33歳の冴えないおじさんだ。
まあそんな事はどうでもいい。
ファサリ、と音を立てて布は落ち、材料が現れる。



「うげっ」



綱吉は思わず微妙な表情で固まった。
他のメンバーもちょっとばかし目を丸くしている。



「……不利だ」



ポソリ、と。
スカルが呟いた。

目の前に現れたのは大きな水槽と鶏小屋。
野菜類等は普通に置いてあるのに、この二つが異様だった。
どうやら、魚介類の調達は自ら行わなければならないらしい。
水槽の横に網やら銛やらが備えられている。



「因みに、卵を必要とする方は鶏小屋から取っていって下さいね〜!そして中にいる鶏は、サドンデスで生き抜いてきたモサ達なので気を付けて下さい!」



うおぉぉ、と会場が動揺した。
綱吉は動揺という名の一般教養のある行動を最早放棄し、水槽を泳ぐ魚を眺めている。
デケーなこの魚。鮪じゃねーの。しかもなんか…あれ……鮫、入ってるよね。



「アハハハハハハ……、」


もうこうなったら現実逃避だ。それしかない。
そう綱吉が確信した時、ゴツンと後頭部を殴られた。
否、効果音はガツンだかガゴンだったかもしれないが。



「現実逃避してる場合じゃないでしょ。愛する人に愛を伝えるには料理よ!だからアンタも恋人の為に頑張りなさい!」

「ビアンキ……」



やけに男らしく仁王立ちで語るビアンキを綱吉は痛む頭を押さえ見つめてから、スカルの方をチラリと見た。
恋人でも友達でも、愛する人には違いない。



「分かった、俺、いや、私、頑張る!」



二人でコクりと頷き合い、かたい握手を交す。
何だかよく分からないが、二人の間に友情が芽生えた。
それを横で見ていたラルは馬鹿馬鹿しいと微妙な顔をしている。



「じゃあ、材料を取っ捕まえに行きましょう!私は魚だから水槽を攻めるわ」

「じゃあ俺はオムレツだから卵……、」



卵。
鶏。
サドンデスで勝ち抜いてきたモサ達。
イコール綱吉<鶏。
数学を苦手とする綱吉の頭の中に、その時嫌な公式が産まれた。
そして。
綱吉は決して明るくはない未来に、ピシリ、と音を立てて石化したのだった。
もう、駄目かもしれない。


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