小説

□商店街事情
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『ドキドキ!以心伝心対決!』のドキドキは、きっとハラハラか何かの間違いだ。
綱吉は遠い目をして悟った。
目の前には固唾を飲んで見守る大衆(目線は綱吉以外の皆々様に向けられている)が。
以心伝心対決か。
スカルは余計な事をしないで自分の意志を貫き通せば大丈夫だと仰ってくれた。
その目は本気のソレであったので、調子こいてスカルに合わせてみた日には沢山殴られ沢山青痣を作り沢山悲しい思いをすることになるのだろう。
主に綱吉が。寧ろ綱吉だけ。

しかし何がショックだったって指定された席に座らされた直後駄目押しとばかりに先程仰ったこの教訓を繰り返し、最後には『アンタが良かれと思ってやる事は全て裏目に出る』とまで。
酷い人間もいたものだ。
今日のスカルは、人間の皮を被った魔界に住むオゾマシイ誰かだと綱吉は確信した。



「それではお題を発表していきます!第一問!」



綱吉のやたら薄暗く夏にあるにも関わらず吹雪いている心境とは相反する、ハルの正に真夏の太陽の陽射しのように明るい声が響き渡る。
チラッと綱吉は出演者の顔色とやらを伺ってみた。
コロネロとラルはどっからでも来いといった風にやる気に満ち溢れているし、ビアンキも兎を狩る獰猛類の様な気迫で挑んでいる。
リボーンはムカつく程にいつもと変わらずだ。
スカルも普段通りである。
何故だろうか。
綱吉はこの不利的状況に陥ってそんな表情でいられるスカルに微妙な視線を送った。

スカル。お前は涼しい顔してる場合じゃない筈だ。
もう少し危機的状況をその賢い賢い頭で把握してくれ。
そして此方の心情を察知しろ。



「『童話』と聞いて貴方が思い浮かべるお話は何でしょうか!」



問題のトータル数は5問。
リボーン達に勝つには、全問正解を目指すしかない。
なんというか、横暴だ。
綱吉は手元にあるボードを睨み、黒いマジックでサラサラと一番はじめに思い浮かんだ童話名を書いた。
半分以上ヤケである。
それにスカルも連帯責任で脱落するのだし、そう考えると何だか良い気味だと思えてきた。
最早綱吉の敵はリボーンにあらず、スカルへと変わってきているのだが、それを教えてあげるほど優しくお節介な人間はこの場には居ない。



「さーて、皆さん書き終わりましたね!では答え合わせに行ってみましょう!」



ドキドキドキドキ。
緊張の時だ。
勝ち残ってもこの嫌な緊張を味あわなければならないのかと思うと。
綱吉はウゲェ、と表情を歪めた。



「では、コロネロちゃんとラルさんのカップルからせーのでお願いします!せーの!」



じゃん!
静まり返る会場。
何だ。正解なのか?どうなんだ?
イマイチ状況についていけない綱吉の疑問を吹っ飛ばしてくれたのは、ハルの一声。



「はひー!二人とも素晴らしいですぅ!答えは『ランボー』!童話のギリギリラインですね!」



いや、ぶっちゃけアウトコースだろそれ。



「さすが筋肉バカップル」



プププ、と噴き出すリボーンに、二つの殺気が叩き付けられる。
言わずもがな、ラルとコロネロからだ。
しかしそんなランボーコンビの殺気もどこ吹く風なリボーンは、魔王級だろう。
流石リボーン。
残念度合いが素晴らしい。
綱吉は失礼にも、本域で感心していた。



「どうして『ランボー』だとお分かりになられたんですか?」

「昔から親父が話す話がこれしか無かったってだけだコラ」

「右に同じく」

「成程!お二人は幼い頃から家族公認の仲だったって事ですね!」

「「……違う」」



ハルの受け答えにグッタリし始めるコロネロとラル。
憐れだな、とスカルは密かに思った。
この大会終了時には憔悴しきっているかもしれない。



「では!次はリボーンちゃんとビアンキさんの方へ参りましょう!」



ここは安全権だ。
心配に及ばない。
ただ、他の4人は、若干の期待を込めて成り行きを見守っている。



「はひー!こちらも『白雪姫』でピッタンコです!素晴らしい共鳴率ですね!」



4人はケッとやさぐれた。



「私はこの話でポイズンクッキングに目覚めたのよ。毒林檎って可愛いし、強力な殺傷力もあるから素敵な話だと思って」



頬に手を当て過去を懐かしむビアンキに、綱吉はゾゾゾッとした。
夢を与える筈の童話が、とんでも人間を産み出してしまっている残念加減。
なんというか、ドンマイである。



「では!スカルさんとツー子ちゃんに参りましょう!」


来た。
皆の視線を一斉に浴びて、綱吉はゴクリと息を飲む。
あぁぁぁ……
コレ多分失敗したら何でか分からないけどスカルのファンも敵に回す事になるな。最悪だ。
何も悪い事なんてしてないのに。
少なくとも、ポイズンクッキングとか、そんな訳の分からない料理制作よりは全然。



「では!せーの!」



えぇい!イチかバチかだ!
こうなったらヤケである。
綱吉はぎゅうと強く目を瞑り、ボードを差し出した。



「―――……うぅ、…ん?」



おそるおそる目を開く。
横に居るスカルを伺えば、目が合った。
ど、どっちだ……。



「ご名答ー!凄いですぅ!三組が三組以心伝心度合いが半端ありません!マーベラスです!」



ハルの叫びに、観客もおー!と感嘆の声をあげている。
綱吉のボードには『はらぺこあおむし』と汚い字で平仮名が書きなぐられていた。
スカルのボードにも、やる気の無さそうな、ノートの端にメモを書くときの様な字で『はらぺこあおむし』と書かれている。



「言っておくが、『腹ぺこあおむし』は童話じゃないからな。全く……」



フン、と鼻を鳴らしたスカルに、綱吉はポカンと彼を見つめてしまう。
何だろう、このトキメキ。
綱吉はこりゃ惚れるよ流石に、とファンになった気持ちでフワフワとした気分に浸っていた。



「何か……今日カッコイイね、スカル」

「そりゃどうも」



うっすらと頬を染める綱吉に、スカルはサラッと返すだけ。
だって。
ここで満足している場合ではない。
あと4問も待ち構えているのである。



「でも何で分かったの?」

「昔はバカのひとつ覚えみたいにこの話ばっかしてたからなアンタ」

「えっ、嘘。良く覚えてんねそんな事」



綱吉は、ほえーとアホみたいな声を出した。
昔話が返り咲き妙にいい雰囲気の二人は、四つの殺気混じりの視線が自分に降り注いでいる事に気付いていない。
ビアンキは嫉妬する意味なんて無いので、リボーン、コロネロ、ラル、ともう一人。
審査員席にいるマーモンからだった。



「では!第二問!今までしたデートの中で印象的だった出来事は何!」



デート。デートか。デートね。
……うん。

してねーよ!
四人は珍しく同じタイミングで突っ込んだ。
なんとも絶望的である。
どうしよう、とスカルと綱吉は目を合わせ、マジかよ…とコロネロとラルは嫌そうな顔をした。



「おい!そりゃデートに限んなきゃならねーのかコラ」



してないものはしてないので、答えようが無い。
しかしそう睨みを効かせてくるコロネロにたじろぐ事もなくハルは答え返す。
彼女は呑気なのか度胸がすわっているのか、イマイチよく分からないフシがある。



「二人の思い出からでも全然オッケーですよ!でもそうすると答えの一致率がぐぐんと下がっちゃうかもですけど、大丈夫ですか?」



そりゃそうだ。
デート、とくくられていれば、その数回のデートの中での出来事を思い出し答えればいい。
だが二人の全ての思い出となると。
ラルとコロネロに至っては生まれてからずっと一緒なので、その中での出来事の量ははかり知れないだろう。



「構わない。寧ろそっちのがありがたいぜ」



ニィ、と笑ったラルの格好良さに、観客がうっとりと瞳を細めた。
変わって、綱吉とスカルはやべぇと内心で焦る。
あの顔は自信満々である時の顔だ。
コロネロも答えを確信しているのだろう。サラサラとボードに答えを書き出す。



「おーっと、リボーンちゃん達は書き終わったようですね!スカルさん達も早く答えてくださいね!」



そんな事言われたって、だ。
綱吉は再びヤケになりマジックを手に取った。
スカルとの記憶を堀当てる。
二人きりって今まであっただろうか。最近はずっと一緒に居たけど。
そう、最近は。



「はーい、皆さん書き終わりましたね?じゃあ面倒なので一斉にオープンしちゃって下さーい!」



実にやっつけ仕事な感じが否めないが、そこは商店街のイベントの司会だ。
はじめから期待はしていない。



「コロネロちゃんとラルさんの答えは『去年の冬にしたサバイバル体験で海に二人で投げ出された事』『海に落とされてどちらが先に島にゴールするか競った事』で正解でーす!はひー!想像を絶するデンジャラスなカップルですぅ!リボーンちゃんとビアンキさんの答えは『ビアンキがポイズンクッキング以外の料理を作れるようになった事』『愛するリボーンのために苦手(普通の料理)を克服した事』愛がある答えですねぇ!スカルさんとツー子ちゃんの答えは……『先日家に泊まった時、ただ寝ていただけなのにスカルに蹴り飛ばされた事』『ツー子の寝相の悪さ』!」



それは思い出というより、愚痴である。
観客一同はそう思ったのだが、リボーン達には綱吉とスカルが一緒の布団で寝たという事の方が重要だった。
何だソレ。聞いてない。
お父さん聞いてないぞそんなの。
後ろの方で大事な一人息子の活躍を眺めていた家光もこれにはポカーンである。
奈々はあらあら二人共仲良いのねぇ〜と呑気なものだが。



「寝相悪く無いよ。あれはスカルがクーラーかけすぎで寒かったんだってば。お前一人でタオルケット独占してるしさー」

「だからって人を抱き枕代わりにするな」

「だから寒かったんだよ!」



小声でどうでもいい弁解を始めた綱吉に辺りは固まった。
何だお前。
スカルを抱き枕として活用したのか。何てヤツだ信じられん。
抱き枕にするなら俺だろ、普通。
そう内心で異論を申し立てたのはリボーンとラルである。
一方でコロネロはというと、実は以前綱吉に抱き枕にされた経験があったので『自分だけの特権』とやらが奪われた様な気がして微妙な面持ちだ。



「さぁ!盛り上がってきた所でガシガシ行きますよー!じゃあ第三問!」



しかしそんなコロネロの微妙な心情とリボーン達の殺気をも粉砕する、ゴーイングマイウェイな司会のハルの声が商店街に響き渡る。

その時チラリとスカルがコロネロを伺うように見た。
分かりやすく不服そうな顔。まるで小学生の様だ。
否、多分。
リボーンも、ラルも、マーモンも。そしてこの自分でさえ。
欲しがる事をやめずにダダをこねるガキ。
綱吉はふいに黙ったスカルの視線を辿り、コロネロを見る。
目がバチリと合う。
フイっと顔を反らされた。
……何故。



「スカル」

「何だ」

「お前今コロネロと喧嘩してる?」

「別に。してない」

「そう?じゃあ……俺に原因があるのかな」



そんなにラルと出場するのが嫌だったのだろうか。
会話は交しているものの、いつも以上にコロネロがそっけない気がする。
ぐぬぬ、と綱吉は押し黙りどうしようと考えた。
その的外れな悩みを読み取ったスカルは、小さく溜め息を吐く。



「今は対決に集中しろ。他の事は極力考えるな」

「うーん……」

「ツナ」

「…分かったよ」



スカルに諭されて渋々ながらも頷く。
でも、本当は気になって仕方がない。
コロネロとは用が無くても遊ぶ間柄。
折角の『親友』を、無くしたくは無いのに。

でもこのバカップル大会に出ようと提案したのは自分であるし、やはり原因は自分にあるのだろう。
再度どうしよっかなーと幼馴染み特有の投遣りさで綱吉はコロネロを見つめてみた。
が、もう一度目が合う事は無かった。



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