生意気な子供達

□何やら薔薇も咲いたのに
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呑気な呑気な春の午後。
ぽつりぽつりと雨がタップを踏み出したと思えば、何やら雷も柔らかく鳴る。


灰色になった薔薇園に、少年が3人佇んでいた。



「…雨か」



黒い服の少年がポソリと溢しては、空を見上げる。

つられて2人の少年も空を見上げる。



まるで城の様なその敷地には雨は吹き込んで来ないものの、冷たい風が少年達の頬を刺していく。



「ったく…遅ぇぜコラ」



今度は金髪の少年がもらす。
不服そうに歪められたその表情は遠くに響いた雷鳴と重なりあってじわじわと空気に溶ける。
悲しいのか、腹が立つのか。
同時に黒い服の少年と、紫の瞳を持つ少年も顔を歪めた。
それはまるで玩具を取り上げられた子供の様な――…。




少年の姿をした子供達は知らない。
その光景を眺めていた、嵐が、雲が、雨が、霧が、静かに優しく微笑んでいることを。
複雑そうに眉間に皺を寄せながらも口と瞳は素直なもので。



「珍しいですね。あんな静かな呪われた虹の子供達は」

「待ってるんだろうね。青に澄み渡る大空が現れるのを」



霧と雲は薔薇園を囲む部屋の向かい側からそれを眺めて様子を伺い、



「難儀なモノだな。あのお方達は」

「なんつーか、気付いてないところが天然なのなー」

「…てめぇが言うか」



嵐と雨は複雑そうに溜め息をつく。



薔薇を植えようと言ったのは初代であった。
花の似合う男であったのは確かだ。
薔薇を従えていてもおかしくはないくらいの気品・雰囲気も持ち合わせていたのも。



『薔薇だってさー、はは!綺麗だね。お前らそっくりだよ』



いつだったろうか。
初代の末裔にして一番ソレに近い男がそう笑った。

美しい容姿、その気高き色、トゲで身を隠し誰も寄せ付けないその様が、

まるでお前ら虹の申し子そっくりだ、と。


だからきっと初代も欲したのだろうと。

だからきっと人々を魅了してやまないのだろうと。



『容姿も勿論薔薇だけど―――…心も結構薔薇だよな』



トゲがあるけど美しくも甘い優しさを持ち合わせている。
気品だってある。



『俺はね、お前らが誇らしいよ』



にへら、と笑って薔薇を掲げるその人はその薔薇達の心を捉えて離さない。

雨が雲に合わせ強弱をつけ始めると雷鳴は更に近いものとなる。


まだ花の咲かない薔薇園は、それはそれはおかしな光景でありシュールであった。



「…馬鹿め」



紫色の瞳を持った少年が言葉を紡いだのを最後に少年達は黙り込む。



そして思い思いに目を伏せる。

何やら薔薇も咲いたのに――…



『お前はいつも遅いんだ。このダメヤロー』



早くここへ来ればいい。

そしたら主の好きな薔薇達と共に春を奏でられるのだ。



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