生意気な子供達

□準備は至って入念に
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「で、うちらってどーすんの?」



その日、呑気な声と大きな溜め息がスカルの部屋に響きわたった。



あの妙なアミダクジから数日間。何もしないで過して来たが、リボーンの一言は割りと本気らしく「何か準備をしておけ」と催促の電話が来た。
自分はすべてビアンキが何とかしてくれるから、と実に呑気なものだが、他人への目は厳しいものだ。
若干「お、これは無かった事になりそうだなラッキー」とか思ってしまったスカルは自分を呪いたい気分だった。


リボーンからの電話は綱吉の所にも行っていたらしく、こうやって綱吉はノコノコスカルの家へと出向いてきた訳で。


昔からおバカな綱吉を好いていた父親が彼を追い返すわけもなく、スカルの許可なく勝手に綱吉を部屋に押し入れてきたのがついさっき。

元々スカルの父親は頭が良い方ではなく、どちらかといえば「夢は息子とキャッチボールをすることです」的な思考の持ち主なのだが、如何せんスカルの頭が良くそれでいてクールなインテリに育ってしまった為息子とのキャッチボールという夢は、夢のまた夢になってしまった。

否、スカルが仕方なくキャッチボールに付き合ってやった事もあるのだが、キャッチボール中にグダグダ煩い(やたらとフォームを誉めてくる)父親に耐えられず豪速球を顔にブチ込んだ過去があるのだ。

もちろん、それ以来スカルはキャッチボールをしなくなったし、スカルの父親はスカルの母親にコッテリ絞られた。
ちなみに彼女は大学院の教授だったりするので、きっとスカルは彼女の遺伝子を多く受け継いだのだろう。
これに対してはもう「よかったね、」の一言に尽きる。



「とりあえずアンタが女装しろ」

「えっ、やだよ!スカルがしてよ!」

「馬鹿か!背が低いんだからやるなら絶対、確実にアンタだ!!」

「なんだとー!!」



ギャアワア煩い2人に、店に出ていたスカルの父親は微笑んだ。
綱吉くんのそのアホ可愛いところが、少しでも我が息子にうつってくれたらいいのだけれど。




所変わってラルの家。
八百屋の前に出ている椅子に座りながら、コロネロはトマトをカジっていた。
そこにラルのパンチが飛ぶ。



「ちゃんと金は払っていけよ」



ラルの拳をかわしながらも、コロネロのテンションはなおも低い。
鬱陶しそうに目を細めたラルの機嫌も最悪だ。



「何でテメーと出なきゃならねぇんだコラ」

「知るか」



お互いに心の内は「どーせならツナとが良かったぜ」だ。
コロネロが小さく舌打ちをした。
それを聞いたラルは、やれやれと首を振る。



「コロネロ、お前ツナに本気で恋してるだろう」



瞬間、ブフゥ!とコロネロがトマトを吐いた。
汚い。
ラルの拳が今度こそコロネロに叩き付けられる。



「な、なななな何で知ってんだコラァ!!」

「見てれば分かる。何年一緒に居ると思ってるんだ馬鹿が。つっても自覚したのはあのクジの後ぐらいじゃないか?」

「…ぐ、」

「遅いな」

「っるせぇ!」



まったくこの幼馴染みは、随分と色恋沙汰が苦手な様だ。
馬鹿みたいに真っ直ぐな男だったから、物腰柔らかい綱吉にどうアタックしていいのか分からないのだろう。
別に今までと同じように接すればいいのに、アホなヤツだ。
勝手に悩んで勝手に泥沼に填っている。
ざまぁない。

まぁ此方にしてみれば好都合。
自覚してすぐ行動に出れないことも知っているし、別にどうすればいいかなんてことは教えてやる必要もない。
ラルは勝ち誇った様に笑うと、コロネロを見据えた。



「ま、今回は本気で落ちる方向性で話を進めよう」

「そうだなコラ」



2人はよし、と力強く頷いて相手をけなす言葉を考える事にした。
相手が大嫌いだということが審査側や客に伝われば、綱吉が変な誤解を招くこともないのだ。






「あぁぁ…最悪だぁ」



そして勿論そんな事になってるとは知らない綱吉は、スカルの布団に倒れ込んだ。
もふん、といい音がする。
スカルの布団は、コロネロのと違って柔らかい。
綱吉は布団フェチだった。



「…京子ちゃんにバレたら嫌われる、絶対」



ぷは、と布団から顔をあげて綱吉は嘆いた。
ちなみに綱吉の髪型は今、大変な事になっている。



「大丈夫だろ」

「大丈夫じゃないよ!!髪ピンで止めてつけ毛くっつけただけじゃん!襟足のびただけじゃん!」



一応即席で買ってきたピンとゴムとウィッグで何とかできた。
彼特有の爆発頭はまぁセットしましたとか適当な事を言って誤魔化せばいい。
不思議と自然に見える。



「後は化粧とかで誤魔化せ。ホラ、母さんの化粧道具一式を借りてきたぞ」

「勝手に盗ってきたんだろ」

「スッピンで出るか?」

「すみませんでしたごめんなちゃい」



スッピンだけはマズい。
あぁ、あの時何故自分はあんな事を言ってしまったのだろうか。
まさか自分が女装して出場することになるなんて!



「ほら、顔かしてみろ」



視界に映ったスカルに無理矢理起こされる。
ぶぅたれている顔をなおされて、綱吉は大人しく化粧を受けることにした。



「ゔぅぅ〜」

「唸るな」

「スカル凄いねぇ、何でも出来ちゃう」

「こんなん適当だ」

「流石器用マン」

「ホラ、出来たぞ」



んん、と漸く瞳を開けば意外と近くにスカルの顔があった。



「後は服だな。とってくるからアンタは鏡でも見てろ」

「う、うん」



す、とスカルが下がって部屋を出ていった。
階段を降りていく音が聞こえたので、多分また母親の部屋にでも侵入しにいったのだろう。



「…鏡」



ひょいひょいと片付いた部屋を進んで、鏡を探す。
…無い。
どうしろと。



「お、」



そうだ。
多分廊下の突き当たりにある洗面所にあった筈。
どうせスカルの父親は今店に出て働いているし。
よし、いざ行かん洗面所!



ガチャ、



「って…えぇぇぇええ!?」




パリーン、と皿の割れる音が響いた。
綱吉は驚きのあまり固まる。
鉢合わせた目の前の人物も固まっていた。

多分これは「終わった。」という雰囲気だ。
…うん。
どうしよう。


スカル、助けて。

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