生意気な子供達

□行き先
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ちょっと洒落たレストラン。
バックではこちらも洒落たジャズが流れている。
そんな中、綱吉は気まずそうに正面に座る男を見た。
今は丁度お昼を過ぎたところで、客はまばらだ。


「あの、」
「何だ」
「…いえ」


綱吉の前に座る男はかなりの男前。
黒いスーツに身を包み、優雅に長い足を組んでいる。
男から見てもかなり格好いいのだ。
女性が落ちて当然。
つまりは店員さんやお客さんの視線が堪らなく熱い。


「何固くなってやがんだ。フツーにしてろ」
「普通っつったってなぁ…」


いきなり飯を一緒に食べないかと誘われたらコレである。
こっちはティーシャツ、ジーパンのフリータールック丸出しだというのに…!
いや、実のところマフィアのボスだけれども。
早々に切り上げてきた仕事を思うと胃が痛む。


「何もこんな洒落たとこ来なくたってさぁ…」
「不満か?」
「お店自体には不満はないよ。お前にはちょっとねっていててて!」


黒いスーツの男、リボーンは綱吉の足を思いきり踏んだ。
周りの目が怪訝なものに変わったのをヒシヒシと感じられた。
ここに綱吉の味方は多分存在しないだろう。


「何すんだよっ」
「おめーが我がままな事言ってっからだろうが」
「お前ちょー理不尽っ…!!」


涙目の男なんて気持ちの悪い生き物が、綱吉限定でとても愛しく思えている自分。
リボーンは心が満たされていくのを感じた。
今日は中々に幸せであり、そしていい日だ。


「飯、食ったら行くぞ」
「…?何処へ?」
「お前が好きそうな場所」

マジで…!!?
綱吉は瞳をきらんとさせてリボーンを見た。
が、すぐに表情を曇らせる。


「昼も内緒で抜け出してきてるのに…皆に絶対怒られる」
「俺が護衛なんだ。何も心配要らねぇ」
「んー…でも連絡、「しといた。帰りは明日になるってな」…えぇぇ、何故」
「デートが昼飯だけってふざけた事は俺のモラルに反するんだよ。今日はキッカリ朝までコースでやってやるぞ」
「何が『ちょっと昼飯付き合え』だ!!お前の目的はそれかよっ!!!」


ガタン、と思わず立ち上がってしまった綱吉に、ザワザワと客が冷たい視線と小言を投げ掛けてくる。

何故俺がこんな目に…!

綱吉は唇を噛み締めて席に腰を下ろした。
すると丁度お姉さんが料理を運んで来てくれた。
鮮やかな赤が眩しいペスカトーレが、綱吉の空腹を駆り立てる。


「フン。おとなしくしてろよ」
「お前に言われたかねー」


いただきまぁす、と気の抜けた挨拶をしてパスタに手をつければ、美味しくて思わず顔が綻んだ。
そして顔が綻んだところを、思わずリボーンは携帯で激写。


「…おい」
「すまん、つい」
「ついじゃねぇええ!お前な、恋人だからまだしも度を越すと捕まるぞ!!」
「捕まんねーしお前以外は撮らねーぞ」
「…あっそう」


リボーンが変態なのは今更だ。
綱吉はチュルチュルとパスタを吸って、チョコチョコとセットのサラダをつまむ。
ルッコラがちょいと苦い。


「ひほーんはふははいほ?」
「何だって?」


ゴクリとパスタを飲み込めば、リボーンはガキかよお前とかなんとか呟いていた。


「リボーンは、食わないの?」
「あぁ。お前が仕事を早く終わらせねーからな。ドルチェ食ってた」
「愛人とか?」
「まぁな。女に恥はかかせられねぇ」
「俺にはかかせるクセに良く言うよ」
「女扱いすんなっつったのは何処の誰だったっけな」
「…俺ですが」


午後の日差しが暖かい。
今日は確にデート日和であろう。
綱吉は少しペースを早めて、パスタを食べる事に専念した。
余りノロノロ食べていると、リボーンが苛々しかねない。
いや、寧ろ小言を言ってくる絶対。恋人が姑だなんて嫌すぎる。


「ドルチェは良いのか?」
「いらない。昨日沢山食べたから」
「獄寺だな」
「そだよ。俺の為に、チョコいっぱい買ってきてくれたんだー」
「俺の買ったヤツは残したのにな」
「しょうがないだろ?だってアレちょっと酒キツかったんだもん」
「…ガキ」
「別にガキで結構。お前が大人び過ぎてる」


瞬間、ニッコリとリボーンは客から見ればまさに薔薇が咲き乱れるような笑顔を作りだした訳だが、綱吉は思わず悲鳴を呑んだ。
チッ、と舌打ちして、ガツン、とリボーンは荒々しく綱吉の脛を思いきり蹴って、席を立った。
綱吉は声にならない叫び声をあげている。


「うっ…鬼っ!!!」


だが忘れちゃいけない。
この男は、紛れもなく綱吉の恋人なのだ。
痛みと涙を堪えていると、リボーンが戻ってきた。


「会計済ませてきた」
「えっ、奢り!?いいのに」
「いんや。ちゃんと領収書ボンゴレで落としといたぞ」
「…お前、以外とケチだよな」
「テメーもだろうが。貧乏性の抜けねぇボスなんて居ねぇぞ」
「はいはい」


店を出て、裏路地に回る。
車は邪魔にならないよう、そこに停めておいたのだ。


「それで?何処行くんだっけ?海?山?なぁ、俺さぁ一回でもいいからお前ん「俺の別荘だぞ」……ま、じでかぁ!?」
「あぁ」
「うぉおお…」


綱吉は驚愕に目を見開いた。
リボーンが別荘といえ自宅に人を招くということは有り得ない。
綱吉も、何度訪れたいと思ったか知れないほど、憧れていた。
『恋人の家でマッタリ』というデートプランを。
いつもはボンゴレ邸の綱吉の自室で過ごす事しか無かったので、ヤケに邪魔が多かった気がする。


「初めての水入らずだ〜」
「嬉しいか?」
「もちろん!決まってるだろ?」
「そうか」


リボーンは満足そうに微笑んで、隣に座りシートベルトも万全な綱吉にキスを落とした。



(行き先は貴方の家まで!)

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