生意気な子供達

□人生2回戦開始
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好きな人がこの世界から消えた時、本当に、本当に、自分の存在意義が無くなってしまったのでして――…


「おい、そこのお前」

「はい?」

「何してんだコラ」

「何って…首吊り?」


狭く汚いアパートの一室で、その時綱吉とコロネロは出会った。


コロネロは死神だ。
結構な腕の持ち主で、彼の憑いた人間は必ずこの世に想いを残すことなく去ってゆく。

つい最近、コロネロが憑いた人間――…笹川京子は、重度の病を患っていた。
病はもう助からないくらいに進行しており、どうしようも無い状態にあった。
病に関しては、愚痴や心配事を溢さなかった京子ではあるが、ひとつだけ心残があるという。

笹川京子は、近年まれに見る良好な人間だったのでコロネロは願いを聞き入れてやる事にした。

その頼み事というのは、笹川京子の彼氏である、沢田綱吉の事だ。

彼は人生笹川京子一筋のダメ男である。
なので、後追い自殺をしないか心配だと笹川京子は切なそうに話ていた。

そして笹川京子の葬儀の後、どんな感じで落ち込んでるのかと様子を見に来たところ、これである。

彼は正に、後追い自殺を図っていた。


「っていうか、貴方誰?」

「死神だコラ」

「死神ぃ?」


沢田綱吉は持っていた縄を手から離し、コロネロに向き直った。
コロネロは厄介そうに舌打。
大体面倒なのだ。
一般人に姿を見られてしまうと。


「最近、変態しかいないな…春だから?」


しかし沢田綱吉は、大きく溜め息をついて首を力なく振った。


「あぁ?」

「貴方で2人目ですよ、死神とかホザくの」


なんと言うことだ。
他の死神が憑いたと云うことは、沢田綱吉にも死相が出ているという決定打となる。
しかしコロネロは沢田綱吉の死相云々よりも、変態と言われたことにイラっときた。


「誰が変態だコラ」

「変態ですよ。大体死神なんて公言してる時点でちょっともう…顔は良いくせに。コスチュームも手製なんですか?似合ってますね」


慣れたように話していく沢田綱吉にコロネロは眉を潜めた。
何だこの男は。

ちなみにコロネロの服装は全体的に死神なので黒だ。
肩には相方の鷲であるファルコが乗っている。


「あ、そのバッチ!」


ふと沢田綱吉はコロネロの胸元のバッチを指差した。
これは死神でもトップクラスの7人しか持つことの出来ない代物である。


「貴方のは青色なんですね。ほぁー、綺麗」

「お前、コレの別バージョン見たことあんのかコラ?」

「うん。アイツのはね、黄――――…」

「よう、ダメツナ本日もダメライフをエンジョイしてるか?」

「うん、このクソヤローのは淀んだ黄砂のような汚い黄色だったよ」


いきなり現れた死神は、コロネロの顔見知りであった。
故にコロネロはカキンと石になる。
なんで居んだお前。


「よお、バカネロ。わりぃがコイツは俺んだ。さっさと冥界に帰れ」

「出たな死神の恥。テメーのターゲットは皆苦痛に死んでく一級犯罪者じゃねぇかコラ」

「えっ、マジで?!」


綱吉はうひぁーと目を丸くした。
死神にも、処罰すべき人間の種類は決まっている。
コロネロも元々リボーンと同じ階級に所属していたのだが、如何せん飽きが回ってきたのでやめたのだ。
因みに他には政界や立法や司法に携わる奴を連れていく死神や、術師や霊媒師なんかに携わる奴を連れていく死神なんてのもいる。

綱吉は断じて一級犯罪者なんかではない。
平平凡凡の一般人。
いや、それ以下かもしれないが。
とりあえずコロネロはツナの人生歴を思い返す。
犯罪を侵そうなんて愚かな考えをするような奴では全くなかった。

だがリボーンは現に此処にいる。


「沢田綱吉はS級犯罪者だぞ」

「はぁ?」

「なんてったっていとも簡単に俺の心を盗んで行きやがったんだからな」

「…は?」


ニヤリと笑うリボーンに、コロネロは最早言葉もない。
綱吉を見れば、溜め息を盛大に吐いていた。


「な、変態だろ?」

「あぁ…」

「んだとツナ。それよりテメー、また俺の居ない間に勝手に死のうとしてただろ」

「だってその銃痛そーなんだもん。だったら俺普通に死ぬし」


チャキっとリボーンが何時の間に構えていた銃。
コロネロはそれに見覚えがある。


「おい、それって…」

「あぁ。俺の良き相棒だぞ。テメーのはライフル型だったか?」


それは、つまりアレだ。
死神には、死者を教育し直せる権利がある。
上級者にしか与えられない権利なのだが、その選ばれた死者は死神になることを約束されるのだ。
リボーンの持っているその銃で撃たれたヤツは生徒になる契約を結ばれる。
コロネロも了平という男に撃った記憶が新しい。
多分了平は今あっちの世界で修行中だ。


「しかしなツナ。睡眠薬、リストカット、塩素充満させて死ぬのはまだしもだ」


リボーンは綱吉の手のうちから縄を取り上げた。


「首つりは止めとけ。あと飛び下りや事故を装うのもだ」

「何で?」

「エグいテメーの死体なんぞ見たくねぇからな。綺麗なままのがいいだろ?そうしたらたっぷりテメーの墓に白薔薇を添えてやれる」

「別にいいよそんなん。俺仏教だから、燃やされちゃうし」

「それに比べて俺の銃はいいぞ。腕も一流だからな、痛みを感じる間もなく死ねる」

「聞けよ」

「つーか何許可を得ようとしてんだコラ。勝手に撃っちまえばいいじゃねーか、テメーらしくねぇ」

「バカかコロネロ。結婚しかり、付き合うことしかり、めんどくせーが相手の気持ちも尊重しなきゃならねぇ」

「はぁ?」

「そう俺も思ってたんだがな。今日で考えを変えることに決めた」


リボーンは綱吉の髪をおもむろに掴み、ソファーに投げ捨てた。
痛い、だとか叫んでいるが知ったこっちゃない。
コイツ、マジ怒ってんな。
コロネロは綱吉を憐れそうに眺めた。
確に、欲しいと思っている人材に勝手に死なれちゃ勿体ない。
それを恋愛面で欲しているのなら尚更だ。


「ツナ、」


カチリ、と眉間に銃口を当てられた綱吉は息を呑んだ。
嗚呼、ヤバイかも。
今更ながら実感する。


「死神の顔も3度までだぞ」

「り、りぼ…」

「素直に従えば素敵な死神ライフを約束してやれたんだがな。残念だ」

「ちょ…っ!」

「お前は今日から、俺の伴侶兼奴隷だ。いいな?」


伴侶には変わりねーのかよ。
コロネロはやれやれと首を振った。
とんだ愛憎劇に巻き込まれてしまった自分が少し嫌になる。
そのまま死んでいれば、京子との第二の素敵生活が待っていたというのに。
沢田綱吉というのは、果てしなく運がない。
まさかあのリボーンに捕まるなんて。
リボーンが綱吉の何処に惚れたのかは全く定かではないが。


「愛してるぞ、ツナ」


――――…ズガン。


リボーンのゲロ甘な囁きを最後に、その日哀れな綱吉の命は絶たれたのだった。


(嗚呼、人生の第二ラウンドが始まる)

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