生意気な子供達

□My Blue Heaven
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気持のいい夜だ。



酒に煽られた体が熱を帯ていく。
それを気持よく振動する鼓動音と、それに合わせて体を駆け巡る血流に、自然と溜め息が漏れていく。

そしてその様子に見かねたコロネロが綱吉を部屋から連れだしたのが、ついさっき。

少々風が吹いてきて、熱った体には丁度いい。
まるで風呂上がりの様だ。

綱吉は「うへへ」と色気のない笑い声を漏らした。

コロネロはそれに眉を潜めた。



「いい大人が酒に呑まれてんじゃねーぞコラ」



金色の髪が、月明かりに照らされて更に神秘的になる。
その瞳は、空を覆い隠す夜の闇に、一滴ミルクを垂らした様な青。


うーん、いいね。
まるで宝石。
人間の神秘。
神様のイタズラ。



「だって、イーピンが、中々手に入らない中国の酒だよーって。久々に来て、お土産にくれたんだもん」

「言い訳はナシだぜコラ。見苦しい」

「だって、最近仕事仕事でぜーんぜん外出させてくれないし、お酒もナシだったしぃ」

「オイ、」

「それに!俺がこーやって酒に呑まれたら、コロネロが連れだしてくれるでしょ」

「テメー、俺が来るとき狙ってやってたのかコラ?」

「んふふー!だって俺この時間大好きなんだもーん!」



例えば、君のその髪!
太陽の下だと明るすぎだけど、夜になれば目に優しいから好き。

例えばその表情!
だいたいクールだったりするけど、夜になれば甘さもかもし出すから好き。

例えばその声!
いつもはツッケンドンだけど、夜になれば気ダルさを含んでいるから好き。



淡い酒の残り香と、近くの民家から流れてくるラジオ。
12時を告げて、流れてくるのは甘いジャズ。
赤と茶色と白を基調にした、なんのヘンテツもないボロいアパルトマン。
その屋根で月明かりをむさぼる俺たちは、まるでジプシーの様。
否、ジプシーだったらよかったのに。



「ボンゴレ、余り人をからかうんじゃねーぜコラ」

「からかう?ははっ冗談!」



綱吉は静かに笑ってコロネロを捕える。
うーん、相当不機嫌、且つ相当呆れているようだ。
まいったねぇ、どうも。



「怒っているなら、ゴメンなさい。呆れているなら、許してね」



フン、とコロネロが鼻を鳴らした。

それを聞いて、綱吉は今度は柔らかに微笑んだ。


そして、ジャズに合わせて口ずさむ。
コロネロはファルコを空に離し、それを腕組しながら眺めている。

護衛としては、抜群な彼のこと。
どうやらここには害虫が居なかったらしい。



ファルコが月に映っては消え、陰を残してはそれをまた拐っていく。

それでも、月の明かりが混じった闇の、その淡い青が月そのものに滲まないのが綱吉には不思議で堪らない。



「ねぇ、コロネロ」



そう呼び掛ければ、「何だコラ」と言葉だけ投げ掛けてくる。



「まだ一個、大好きな理由言ってなかった」

「…はぁ。そんなことかよコラ」

「まぁそう言わずに。大切なことなんだよ」



コッチ来て。
コッチ。

綱吉が手招きすれば、コロネロは億劫そうではあるが、それでも割りかし素直に近付き、彼の隣に腰をかける。
綱吉はそれに満足して笑い、自らコロネロの瞼に口付ける。
所詮相手は酔っ払いだ。
だけどコロネロは振り払わずに、なすがまま。
結局こちらも気まぐれな様だ。



「俺ねー、一番その瞳が好き!」



夜になれば、
俺を魅了して離さない。
リキュールを含んだようなブルーハワイ。
俺の心の唯一の天国。



「ありがとう、コロネロ!これからもよろしく、コロネロ!」



また、俺をその天国へ招待してね。


そう綱吉はヘラリと笑ったかと思えば、クタリとコロネロによっかかる。


ジャズを呑気に口ずさんでいたり、人を誉め殺したりしたその口からは、スヤスヤと寝息が漏れているだけだ。



「ったく…何が天国だコラ」



コロネロは溜め息をついて、綱吉の額にオヤスミのキスをした。



それを見ているのは、多分。
白を含んだ優しい今宵の月と、
風と闇と月を切って飛ぶ、彼の相方だけなのだから。



そしてまぁ、確に。


本日は気持のいい夜なので。

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