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□恋人不孝者
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本日も天候が著しい。
とある女が言った。
お天気の話は止めて。
だって、お天気の話というのは大切な話の前ぶれなんですもの!と。
まぁ要するにとっとと主要を話せという事だ。
とりあえずスカルは大きく溜め息を吐いた。
本当に久々にボンゴレ邸に足を踏み入れた本日。
スカルは少なくとも、扉を開けたら「いらっしゃい!」と微笑む恋人を想像していた訳で。
まさか窓の外を眺めて黄昏ているとは思わなかった。
「いらっしゃい」
しかも何だか廃れている。
ケッ、と吐き出す様に告げられた歓迎の言葉は、全然歓迎の言葉ではない。
というか遠くを見つめながら近付いてきた小鳥達と戯れるのをヤメロ。
スカルは微妙な顔をして、綱吉を見つめた。
今度は一体何なのだろうか。
沢田綱吉という男はことごとくスカルの思考の上を楽しそうにピョイピョイ飛び越えていくヤツである。
普段はとても分かりやすい分、こうなってしまったらなんとも扱い憎い。
2面性では収まらないのだ。
部下達と居るときの顔、守護者達と居るときの顔、アルコバレーノ達と居るときの顔。
全てが似ているようで、違う。
特にスカルと居る時の顔は、気を使って部下達や守護者達と居る時の反動だろう、とても我儘で子どもじみた性格になるのだ。
だがまぁそれは信頼の証でもあるし、有り難い事なので苦には思わない。
寧ろ依存性が見受けられるので、光栄とすら思えるのだが。
「今年の誕生日さ、」
ぼそり、と立ちすくむスカルに綱吉は呟いた。
「…結局何も無かったよね」
小鳥を指や肩に止めて、ぼそぼそと喋る綱吉は少し怖い。
別に怒っている訳でも、悲しんでいる訳でもないのだ。
ただ、切ないだけで。
綱吉は今年の誕生日を思い出していた。
お互い仕事が立てこんでいた事は分かっている。
自分ももう歳だし、誕生日プレゼントもせがむつもりはない。
けれども、だ。
電話くらいは欲しかった。
否、この際メールでもいい。
「でも前日に『無理しなくていいからね!』ってメールしてきたのはアンタだろう」
眉を潜めて反論するスカルに、綱吉は漸く彼を見た。
何でこういう時に限って無駄に素直なのか。
その自慢の頭で裏を読んで欲しかった。
というか裏を読んでいて放置した感があるのはどうなんだ。
『本当は声が聞きたくて、あわよくば会いたかったんだぞ!』だなんて恥ずかしい事は言える訳が無かった。
「…そうだけど、」
「ならいいだろ」
「良くない!」
「何でだ?」
「なんっ…!?」
前言撤回だ。
スカルは裏を読んでいなかった。
綱吉はグッと涙を飲む。
馬鹿かお前は!!と叫べたらどんなに楽だろう。
でも出来ないのだ。
だから綱吉はもうとことんイジける事に決めた。
そしてそんな綱吉に、スカルは今更ながらに綱吉の意図を悟る。
しかし、ヤバいと自覚した所でもう遅い。
綱吉は完全に明後日の方向を向いていた。
「綱吉、」
声をかけても無視だ。
とりあえずスカルは花瓶の中から花を一輪取り、綱吉に捧げてみる。
すると綱吉はそれを取り上げて次の瞬間口に入れてモシャモシャと食べてしまった。
ヒラヒラと手を振ってもう花は無いことを教えてくれるのはいいが、まさか食べるとは思わないだろう。
「腹減ってるのか?」
まだ口をモシャモシャさせながら綱吉は大きく首を横に振った。
しかし涙目である事からして、花は不味かったらしい。
当たり前だ。
スカルはそれでも根性で飲み込んだ綱吉に拍手を送りたいくらいであったが、その根性を何処か別のところに投資しろとは言えなかった。
「何が望みだ。ちゃんと口で言え」
ぶーたれた綱吉のほっぺたをツネってみる。
やたら面倒くさい時にはこうやって彼の言うことを聞くに限るのだ。
「もういいよ。いいですよ。どーせスカルにとって俺は宇宙に浮かぶ塵以下ですよ。はいはい、はじめから分かってましたよそんな事」
ぴよぴよと綱吉の頭の上で小鳥が鳴く。
上だけみれば小春日和なのに下をみれば寒波吹き荒れるオホーツク海の様になっていた。
そりゃあ頭も抱えたくなるというものだろう。
「何もそこまで悲観的にならなくてもいいんじゃないか?」
失礼にも若干引き気味のスカルは、とりあえず綱吉の周りの小鳥を手ではらって本人を抱き締めてやった。
「こんの……恋人不孝者!」
ううっ、と涙を飲んでスカルに抱き締められている綱吉の頭を撫でてやればヒグヒグと声が漏れ出す。
とりあえず背中に腕を回して爪を立てている綱吉にスカルは小さく溜め息を吐きどうしたもんかと考えた。
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