□お手柔らかに
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与えられる愛を、どうしたら君に返せるのだろう。
もっともっともっともっと、君に。
有り余るくらいの愛を、君に。



「うぅー……」



とかそんなことをグダグダと考えているもう若くない大人が一人。

そうだ。
もう若くない。
まぁ見た目やそれは別として。


ベッドに体を放り投げてから数分。
沢田綱吉御年30歳は悩んでいた。
今日は恋人がうちに来る日だ。
うん。恋人だ。
恋人。
…恋人。



「こ、恋人て…!」



ぶふぅ!と吹き出しながらも綱吉は幸せに浸った。

そして浸った後で沈んだ。

そうだ。
笑ってる場合じゃない。
幸せに浸っている場合でもない。


恋人か。
恋人ならばキスだったりその上だったり、2年経ったら最終地点まで行くのが事の条理というわけでして。

そりゃあ恋人だからといって会ってイチャついたりなんだりといったものは全くもって今までなかった。
そもそもお互い仕事で忙しかったりで会えない時が続いていたし、会ったら会ったでジャレあって終了。
スカルと綱吉は大人の恋愛とはほど遠い恋愛をしてきた。


しかし、手を握っただけとか。
どれだけプラトニックだというのか。
原因はアレだ。全て綱吉にある。


恋人のスカルはチャンスさえあれば、そりゃあ控え目ではあるがキスを仕掛けようとしたり押し倒したりを繰り返してきた。
しかしその度に「ちょ、待って!」だとか「無理!今は無理!」だとか。
やたらと断りを入れていたのは綱吉の方だ。

綱吉から言わせてみれば「仕方ない」の一言に尽きる。

だが本当に仕方ないのだ。
恋人馬鹿なだけかもしれないが(実際重度の恋人馬鹿)なんというか、こう。
近寄るだけで心臓が口から出そうというか、顔から火が出そうというか。


人生でキスをしたことがないといえば嘘になる。
勿論、その上も。

なのに、何故。

何だこれ。
何。何だろう。
何で今の女子高生よりも数段回上の乙女数値を叩き出してしまうんだろう。

オッサンじゃん。
もう三十越えてんじゃん。
笑えねーつの。



「あー……どうしよう」



時計を確認してから、綱吉はそわそわしだす。
もうそろそろ約束の時間だ。
ベッドから体を起こし、もう一度部屋の片付けをするも落ち着かない。


しかしそろそろ限界がきているのは、時間だけでなくスカルも一緒らしい。
この前なんてソファーに押し倒されて若干服をはぎとられたので、思わずビンタをかましてしまった。
勿論、3倍返しにはあったけれども。
色々含めて、面目無い。


しかし、もう本当に駄目なのだ。好きすぎて。
普段ジャレ合っている時はそんなことないのに。
気にすると泥沼にはまるのだ。
嗚呼、もどかしい。
まさにジレンマ。



「入るぞ」



いきなり声が聞こえた。
心臓が飛びはねる。
いつのまにかスカルはやって来ていたようだった。
リボーンを始めとする彼らは、だいたい元気に扉や窓を壊してやってくるか、静かにいきなり部屋に出現するかのどちらかだ。
どちらにしても心臓に悪い。



「す、すすすすすすす、すかっすかすかすかすか…すかる!さん!」

「…ひとまず落ち着いてくれ。何やってんだアンタ」

「な、何も?」

「目が泳いでるぞ」

「泳がせてるんだよ!」



部屋に入ってきたスカルに、ホッペタをツネられながらも綱吉は目を泳がせる。

こうやって戯れている間は安心だ。
不安なのは、会話もそこそこに雰囲気が盛り上がってくる後半戦。



そう。後半戦。
の、筈だ。





「………………」



ふざけんなよ!と綱吉は心の内で泣いてみた。
さっそく気まずくなるなんて誰が予想するだろうか。
なんというか、残念すぎる。



「いきなり黙るな」

「だ、だって」



ベッドの上で仲良くお喋りしてたのが悪かったのだろうか。
綱吉は少しずつスカルから距離をとってみた。
が、しかしつめられる。
離れては近付いてを繰り返しているうちに、壁際までおいやられてしまった。



「な、なんで詰めんの」

「なんで逃げるんだ?」

「スカルが詰めるからだろ!!」

「俺もアンタが逃げるから詰めてるだけだ」

「うっ…」



ニヤリと楽しそうに笑う瞳の奥に、怒りの色が少し見えかくれしている。



「今日こそキスさせてもらうからな」

「えー…お客さんちょいとそれは無理難題」

「どれだけ待ったと思ってるんだ。理由も話そうとしないし、アンタふざけてるのか?」

「ふざけてはない!本気!」

「理由は?」

「り、ゆうは…絶対笑うからヤダ」

「笑わない」

「笑うよ」

「約束する」

「…絶対だぞ」

「ああ」



じゃあちょっとどいてネ、とスカルの胸を押して距離をとるよう促す。
スカルも今回は仕方ないなと距離をとってくれた。



「あ、あのさ…俺、スカルの事…えー…なんというか、その、あの、」



はわはわ顔を赤くして喋る綱吉に、スカルは眉をひそめて待つ。



「…すき…、なんですが…」

「聞こえない」

「好き!なんですが!…あのう…その、好きすぎて何と言いますか…あー…と。まぁ、そういう事です」



あははは、と若干誤魔化した綱吉はついでにもう一歩引いてみようと試みたが、腕をガシっと掴まれてしまった。
どうしよう。



「ツナ、」

「は、はひっ」



しまった。
これじゃあハルだ。
にしても、今凄い。
心臓が、口から出るかもしれない。マジで。

ぐいっと腕を引っ張られて、強く抱き締められる形になる。
あっ、あったかーい!
とか呑気な事を思ってる場合じゃない。



「ちょ、あの、スカルっ…!」

「何だ」

「何だって…俺死ぬっ!死んじゃいますけど!?」

「フン、こんなモンで死なれてたまるか。2年間の猶予、今日全て払って貰うからな」



耳元で囁かれて、その上耳を甘噛みされてしまった。
ああああ…!



「スカルぅ〜…」

「泣いても駄目だ」



クスクスと笑い声が聞こえてきて思わず顔をあげる、と勿論彼の麗しい顔があるわけでして。

いくら日々イケメンに囲まれていようが、スカルの顔だけには慣れないのだ。



「綱吉、愛してる」



名前呼びとかお前お前お前…卑怯だろう。



「くぅ〜…俺も!」



スカルに押し倒されながら、半ば諦めの境地に達する。

与えられる愛を、今まさに君へ返そうとしているのだけれど。


何というか、もうちょっと。
もうちょっとでいいから、低刺激な方法が良かったと心の底から願う綱吉であった。



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