□交わらない
1ページ/1ページ



暇なのだろうか。
この、現在進行形で隣を陣取っている青年は。

さっきまではやたらと忙しそうにしていたのに。
というか、本当はもっと自らこの場での忙しさを要求しなければいけないというのに。
何をやっているのだろうか、彼は。



「ツナヨシ、ちゃんと話は聞いてたの?」



ボソリと、本人にだけ伝わるように呟く。
うーん…と眠そうに返事をした我らが未来のボスで、このパーティーの主催者側の綱吉。
彼はまだ就任前ではあるが、このパーティーにおいて欠かせない人材だということには変わりないのに。
パーティーは同盟ファミリーだけなのでアットホームな雰囲気ではあるものの、これでははちょっとやる気がないとみなされてしまうのではないだろうか。
まあ、そんなことはマーモンには関係ないことであったが。


他の守護者はどうやら各々好きな行動に出ているらしい。山本はスクアーロと酒を飲み交わしているし、雲雀は元来人付き合いが大嫌い。
クロームは最近仲良くなったオレガノとガールズトークと洒落込んでいる。
あの一番やかましい忠犬はどうしたと問えば、パーティー会場の見張りを頼んだらしい。
右腕として意気揚揚とこのパーティー会場まで来たのに邪魔だから見張りを頼まれただなんて、ほとほと彼は残念な男だ 。
しかし気づいていないところは、さすがと言うべきか。そこらへんは幸せな男である。



「ツナヨシ。一つ聞きたい事があるんだけど」



コンコン、カツンという金属のぶつかる音を聞きながらマーモンは綱吉の手元を見た。
綱吉の手の内には、先ほど取ってきたのであろう。
一枚の皿と、フォークが握られていた。
程よく耳が赤くなっている所を見ると、多少酒も回っているようだ。
にしてもやたらと暗い空気を纏っている。
寝不足も祟っているのだろうか。今は仕事で居ないリボーンだが昨夜までこのボンゴレの屋敷にいた。

疲れた身体に酒は回りやすく、悪酔いをしてしまう可能性が高い。
だからこんな生き物が完成したというわけだ。
綱吉は悪酔いしなければ馬鹿みたいに陽気になる。その事実はマーモンでさえ知っているほどかなり有名な話だった。



「ブロッコリーが、」



ようやく綱吉が口を開いた。
ボソリと呟かれたそれはかなり間抜けだったけど。



「ブロッコリーが、どうしても黄緑色にならないんだよ」



はぁ?と思わず聞き返そうとしてしまったマーモンだが、それをすんでのところで抑えて綱吉の皿の中身をもう一度見た。
そこには、フォークでぐちゃぐちゃにされたブロッコリー、と。



「カリフラワー?」



見た目は判断不能に近しくなっているが、多分カリフラワーだろう。
それが潰され、混ぜられ、何だかよくわからないものと姿を変えていた。
こいつは食べ物で遊ぶなといわれてこなかったのだろうか。



「綺麗な黄緑色にならないんだよ。いくら白を足しても・・・白を、」

「そりゃ…固体だからね。ム、でもカリフラワーの方はブロコッリーの汁が染みてそれらしくなってるじゃないか」



酔っ払いをフォローするマーモンなんていうのは中々見られたものじゃないが、どうやら綱吉は本気で根暗モードになってしまったようだ。
言葉も、何もかもが足りない主張。
それでもマーモンには手にとるように分かってしまった。
綱吉は、今不安に溺れかけている。
そりゃあマフィアなんかになりたくないと随分と長い間喚き散らしていた男だ。

ブロッコリーとカリフラワーの緑と白が思った色に混ざり合わないのと同様で、自分もマフィアなんかに染まれないんじゃないかという不安は、日に日に大きくなっているようで。



嗚呼、本当に厄介極まりない。



マーモンも最初は反対派であったが、今では彼が何故ボンゴレに必要かをきちんと理解している。
皆、ちゃんと表に出さないだけで認めてはいるのだ。

だから、そんな不安は早く捨ててしまえばいいのに。



「ツナヨシ、君はカリフラワーでもブロッコリーでもないんだ。君が前を見据えて進んで行けば、僕達も勝手について行くよ」



しかし。

えー…と超絶嫌そうな顔をしてうずくまった綱吉をみて、マーモンはイラっとすると共に、頭を抱えたくなった。


何だお前人がせっかく励ましているというのに。



要は最初からそんな問題で収まるような嫌悪ではなかったらしい。
マフィアを憎むマフィアのボスなんて。
一体どこの喜劇だろうか?

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ