□プラネタリウムに共存
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この地球には、海と、山と、空と、星と月と街と人と、たくさんの愛があって。
それからそれから、君と僕が2人寝転ぶ草原や、君の好きな花や歌やお菓子があって。
そして何よりも、君の笑顔が僕の心に染み込んで。


ああ、何て。
何て素敵なんだろう。





煉瓦の壁を見ながら街を歩く。
クスリクスクス、と楽しそうに笑う君は、月明かりに照らされて淡く甘く美しい。



「まさかマーモンが連れだしてくれるなんて思ってもみなかったよ!」

「ム。よく言うよ。あの状況じゃ、ツナヨシ仕事しなかっただろ?」

「うーん。確かにねぇ」



よくお分かりで。

そして更にクスクスと綱吉は喉を鳴らして、2人どちらともなく手を繋ぐ。
ふわりと暖かい体温がお互いに伝わってくる。



「で、どこ連れてってくれるの?」

「うるさいなぁ。君は黙って付いてきてなよ」

「はいはーい」

「ム。はい、は1回でしょ」

「はい!」



トコトコ、と綱吉の前を歩く腰くらいまでの大きさに育った少年。
繋いだ手をぶらぶらさせながら、彼のあとについていく。
今日は機嫌がいいみたいだ。
彼の機嫌がいい日は、いつも夜空に星が輝いている。
星が好きなのかな?
という綱吉の思考はあながち間違いではなかったようだ。



「今日は小さな星まで顔をだしてる」



ぽそり、と呟かれた言葉に綱吉もつられて空を見る。
今にも降り出しそうな星達。
本当だ。凄い。
というより、夜空を眺めたのはいつぶりだろうか。
かなり久しい気がするのだけれど。



細く続く裏道の裏道を宛ら猫の様に歩いて行く。
時折、月の光が届かない所までも歩く。
縫うような道は、成程確かに彼らしいのかなと思う。



「まだ?」

「もうちょっと」



実を言うと3回目のまだ?だ。
心の中でのまだ?は7回目だが。
しかし、もうすぐなのか。
景色は街を少し離れた小さな丘に近付いていることを教えている。
煉瓦の間から素晴らしい根性で生えてきた草花も多くなってきた。



「見えた」



道が開けて、マーモンが指をさした先。
丸く小さな月が空から綱吉達を眺めていた。
壁の囲いと打って変わって、広々としている。



「こんなに広いなら、何かもって来ればよかった」

「ム…ツナヨシ夕食食べたんでしょ」

「うん」



あっさり認めた綱吉に、マーモンは呆れた様に溜め息を吐いた。
この大人。本当に大人かと思う事がしばしば。
いや、それは常に近いかもしれない。
別にドルチェが大好きな大人の男がいても構わないし、別に顔が童顔だとかは関係なくもなくも…ない。
ただ、このダメな大人は度を越しているというか。
子供慣れというか、慣れすぎて逆に子供になったというか。
つまり、中身は果てしないくらいガキだ。



「ねぇ、小さい時さぁ。空ってプラネタリウムみたいな造りになってる思ってなかった?」



丘の天辺に登った後に寝転がり、2人で夜空を眺めた。
星と、月と、藍色だ。
そんな風景を見ながら、不意に綱吉はマーモンに呟きかける。



「ないよ。ツナヨシだけだよ」

「えー」

「宇宙の存在知らなかったのかい?」

「知ってたよ。だから、地球があって宇宙があるじゃん?それで、こう、地球に空というマクがありまして」

「プラネタリウムみたいな、」

「そう。プラネタリウムみたいな。どうあがこうとも、俺達は地球の外に出られないの。だってマクがあるから。つまりは地球に閉じ込められてるってワケ」

「ム。何かよくわからないけど何と無くは分かるよ。要は球体のマクの内側に空が描かれてるんでしょ?空の球体の中に陸の球体」

「うん。回ってるのは、空の球体だけ。だからお日様が出て、月が出て」

「ツマラナイ世界だね。星座はどうするのさ」

「あー…そこまで考えてなかったや。ホラ、俺子供だったし」

「ム。馬鹿だね」

「うるさいなぁ。仕方ないだろ!」



横にしていた体を起こして、むぅと膨れた綱吉の頬に月明かりが滑る。
それから数秒して、ふと綱吉が寂しそうな影をその表情に落とした。
さわりと優しい風が吹いて、草花が小さく波をうつ。



「本当は、今でもそうだったらいいなって思ってる」



クスリと笑った彼は、なんだか切なそうだった。
そんな綱吉に、思わずマーモンも体を起こす。
擦れて、草の香りが仄かに漂った。



「そしたら、誰も逃げて行かないだろ?地球の外になんて、俺の知らない所には、絶対に行けない」

「例えば?」

「お前…マーモン」

「他には?」

「リボーンや、コロネロ、スカルにラル」

「そんなに不安かい?」

「うん。不安」



正直な瞳は、マーモンを捕えて離さない。
マーモンは仕方ないねと心の内で呟いて綱吉の頬にちゅ、とキスを落とした。



「僕らは君の側を離れないと思うよ」

「本当かよ」

「本当だよ」

「本当に本当?」

「本当に本当に本当」

「むー…」

「ム、しつこいね。納得しなよ」



への字に曲がったマーモンの口に綱吉は小さく頷く。
顔が上がったその時には、もう寂しそうな影は消えていた。



「絶対に逃げんなよ」

「ツナヨシがね」

「俺は逃げんないよ。あーっと…暴力以外なら?」

「ム、とんだ腰抜だね」

「うっさいなー!ほっとけよ!」

「やだね」



この地球には、海と、山と、空と、星と月と街と人と、たくさんの愛があって。
それからそれから、君と僕が2人寝転ぶ草原や、君の好きな花や歌やお菓子があって。
そして何よりも、君の笑顔が僕の心に染み込んで。


ああ、何て。
何て素敵なんだろう。


だから絶対離さない。
君の側でいつまでもいつまでも。
あとはただ、プラネタリウムに捕われてこのままずっと共存するだけ。


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