□ロックな嫁
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※夫婦ものなのでツナは一応ヲンナです。苦手な方は注意してくださいね〜


















コロネロは帰宅途中の車の中で溜め息をついた。


別に仕事でヘマをした訳ではない。
別に忙しくて昼飯を抜かした訳でもない。


ただ。
愛しい妻に早く会いたい反面で、帰りたくない事情があった。

只今の時刻はまさかの午前1時。
普段の帰宅時間は遅くても11時。
残念ながら今日は夜勤の日でも残業の日でも何でもない。
運悪く上司につかまったのだ。
グダグダと上司の愚痴やら何やらに付き合っている途中、更に運悪く携帯の電池が切れてしまった。
そして追加で最悪なことは飲んだ場所が悪かったところだろうか。
上司のおすすめの店とは、属に言うキャバクラだった。
口紅などはついていないと思うが(そんなヘマはしない)女共の香水の匂いが確実に移っている。
コロネロは自分の体に染み付いた香りに、嫌そうに眉を潜めた。
途中銭湯に寄っても良かったのだが、これ以上時間を遅らせる訳にもいかないし、何より逆に「何で風呂入ってきたの?やましい理由がないなら家ではいりゃーいいじゃん」と妻が疑いをかけてくる。
普段は鈍い癖に、勘は良く働く妻だった。

つまりその事情というのは、残念なことに愛する妻に関することなのである。







うだうだ考えているうちに、自宅へとつく。
コロネロはおそるおそる玄関の扉を開ける為、鍵を開け、ドアノブに手をかけた瞬間――――…





ガッシャン!





ちょっと近所迷惑になりそうなくらいの音が響きわたった。

…チェーンだ。
チェーンがかかっている。

夫が帰って来るのを知っていて、チェーンをかける妻なぞ居ない。
つまりは、多分、いや絶対。
すんごく怒っている。



「おい、開けろコラ」



元々窓から灯りが漏れていたので、起きてはいたらしい。
というか、起きていてくれたのか。
妻は家族団欒という言葉が好きで、夕飯も旦那の帰りを待って一緒に食べる派だった。
そしてどんなにコロネロの帰りが遅くなろうと起きて待っているのだ。
時々、力つきて居間で寝ている時があるけれど、それはご愛敬である。



「合言葉を言わなければ入れません」



内側から、随分と低めに響いた声。
妻の機嫌は最悪だ。
因みに言うと、合言葉なんてのはない。
コロネロはどうしたものかと腕を組み、そして考え付いた答えを言葉にのせることにした。



「ツナ、悪かった」

「ダメ」

「ごめんなさい」

「違う」

「愛してるぞコラ」

「ブッブー!」



ガキくさい妻は今年で30だ。
コロネロとの年の差は10ほどある。
只、見た目は高校生、中身は小学生。
あまりにチグハグすぎる妻とコロネロの出会いはそりゃもう運命に近かった。
というか、コロネロの一目惚れ。
綱吉はコロネロが通う大学の学食で働いていたのだ。

コロネロは早速仕事終りの綱吉を待ち伏せて告白した。
はじめは戸惑った様子の綱吉だったが、何度も何度も熱いアプローチを受けて承諾。
その後、デートを重ね、コロネロの就職を待ちめでたく結婚へと繋がる。
にしても、まさかあんな可憐な妻がこんな豹変するとは思わなかった。



「じゃあ何が正解なんだコラ」

「1ヶ月の家事を約束してくれるなら答えてやってもいい」

「…ああ、わかった」



因みにこの罰は結構キツいものがある。
1ヶ月間、マジで家事を放棄するのだ妻は。
しかもわざと散らかすこともあり、仕事帰りのコロネロは更に疲れを背負うことになった。
朝飯や夕飯だけじゃなく、昼飯まで抜かそうってんだから綱吉の根性は秤しれない。
いつもは酷いくらいにやる気がないのに。
一回コロネロがキレて放棄した事があるのだが、まさか朝昼晩(コロネロは外食で補っていた)を抜かした妻がぶっ倒れて病院へ行くとは思うまい。



「普段より3時間も遅れた上に電話も放置してしまってごめんなさいすみませんでした世界で一番愛してます」

「……」

「早く言わないとドアしめるぞ。因みにそのケバい香水の匂いについての言い訳は中でじっくり聞くからな」

「…普段より、3時間も遅れた上に電話も放置してしまってごめんなさいすみませんでした世界で一番綱吉を愛してるぜコラ」



ガチャリ、と漸く扉が開いた。
これで中に入れる、が。
コロネロは不機嫌に顔を歪めた妻の手に持ったものをみて驚愕した。



「…料理してたのかコラ」

「これからね」

「この時間にか?」

「勿論。今じゃなきゃ駄目なんだ」

「……材料は?」

「お前」



コロネロを指差してにっこり笑った綱吉が持っていたものは包丁。
何てヤローだと叫びたくなる。
でも今は夜中。
不機嫌を通り越して笑顔になった妻は末恐ろしい。
嗚呼、明日は無事に出勤できるのだろうか。


それは軍隊経験のあるコロネロにも分からない未来であった。

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