□倦怠期7
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青い空、白い雲。
そして見渡す限りの海がある。
嗚呼、なんて幸せなのだろうか。


















「つっても部屋一式を南国風味に変えただけだけどな」



ケッ、と綱吉は不機嫌になった。
目の前の壁には、大きな海の絵が描いてある幕が垂れ下がっている。
まさか記念すべき今日この時を、自室で過ごす事になろうとは。
そりゃ悪態もつきたくなるだろう。



「仕方無いだろう。アンタが動けないんだから」



そんな綱吉を、スカルがズバっと切り捨てる。
スカルは優雅に昼間から酒を煽っていた。
しかもちゃんと南の国から取り寄せた高級なものだ。
こちらはベッドから動けないというのに、随分とふざけている。
仲直り当時はとても素敵な恋人だと思えたのに。
あれはただ単に雰囲気に酔って美化されただけだったかららしい。
綱吉はうぅ、とうめき声をあげながら上半身を起こした。



「だって、だって…っ!これは絶対絶対お前が悪いっ!」

「人のせいにするな。自分だって『もっと』だとか何だとかせがんできたじゃないか」

「っぎゃあああ!セクハラ発言!」



真っ赤になった綱吉は枕を思いきりスカルに投げつけた、が楽々とかわされる。

つまりはアレだ。
あのまま盛り上がった2人が我慢できる筈もなく、事に及んだ結果綱吉が立てなくなり海はまた来年、という話になってしまったのだ。
立てなくなるまでやるスカルもスカルだが、それでも求めた綱吉も綱吉である。

しかし南国の道具を揃えてくれたところを見ると、スカルも多少反省してはいるらしかった。
そしてかなり絵柄的に浮いている2つのコンポ。
1つはさざ波用で、もう1つはハワイアンミュージック用だ。
因みにハワイアンミュージックはせめて気分だけでも味わおうという綱吉の悪あがきである。
何だか本場よりそれに近しい環境が綱吉の私室に出来上がっていた。



「最悪だよもー!」

「我儘言うな。こっちは2日間も仕事を休んだんだぞ」

「内1日は勝手に休んだんだろ!」

「アンタが倒れたから看病してやってたんじゃないか。別にサボった訳じゃない」

「そ、それに人のシャツ勝手に着てたしっ」

「そりゃライダースーツじゃ寝苦しいからな」



あの時のトキメキを返して欲しいものだ。
まさか自分のシャツとは思わないだろう普通。
しかし部屋に入ってきたなら起こしてくれれば良かったのにシャワーは浴びるわそのまま寝るわ…同棲してる訳じゃないんだからな!
と綱吉は怒っているわけだが、スカルにしてみれば何を今更、な話題だった。



「大体、ここから海まで2時間はかかるんだ。別に車を出してやっても良かったが…アンタその腰で行けたのか?」

「……行けたもん」

「因みに言うがまたカルカッサに車取りに戻ってたら昨日の再会は無かったかもしれないし、今こうして一緒にいれなかったかもしれないんだぞ」



様子を見ただけで帰ってたかもしれない。

そう言うスカルに、綱吉は黙るしかなかった。
2人はどうやら過去の事は見て見ぬ振りをするタイプらしい。
分かっているのだけれど、つい軽い口喧嘩になってしまう。
多分一抹の不安が去ってお互いに安心しきっている結果なのだろうが、若干もうあの苦痛な日々と必死に恋人を求めた昨日の朝の事を流している感じが否めない。



「それに海行ってどうするつもりだったんだ?」

「そりゃあ、入るつもりでいたけど」

「季節外れだろう。水冷たいぞ」

「…足だけ…入るとか、砂浜、走るとか、砂で城つくるとか!!」



モゴモゴしだした綱吉に、スカルは大きく溜め息を吐く。
この感じは、少し懐かしい。
スカルはこの雰囲気が嫌いではなかった。
否、寧ろ好きだ。



「海に行こうって言われた時から感じてた事なんだが…アンタ、ノリで言っただけだろう」

「…うっ。そ、そんなこと…ありません!」

「目が泳いでるぞ」

「泳がせてるんです!」



実に下らない。
実に下らないのに。
幸せなのだ。結局は。


ふとドアの向こうから先程まであった気配が消えた。
スカルはクスリと静かに微笑む。
別に礼を言おうとは思わない。
言ったところで機嫌が悪くなるだけだろうし、そもそも近付きたくもないだろう。
それに関しては同意見だ。
嫌いなものは、どうあがこうと嫌いであるのだから仕方があるまい。



「じゃあ…来年はピクニックね。スカルが弁当作って来いよな」

「断る」

「えーっ」

「アンタには餓鬼くさい発想しかないのか!?」

「だって綺麗な夜景の見えるレストランとかってツマンナイじゃん。行ってどうすんだよ飯食って終わりだろー」

「それは…リボーン先輩に言ったらとんでもないことになるぞ」



洒落っ気満載な彼からしてみれば、寧ろそっちの方が醍醐味である。
大体飯食って終わりなわけがない。
馬鹿か。
否、馬鹿だ。



「いいんだよリボーンは。だって俺が付き合ってんのはスカルだもん」



さも当たり前のように言い切った綱吉がやたら綱吉らしくて、スカルは満足そうにニヤリと笑う。
そしてそのままベッドに移動し、フチに座った。

綱吉が可愛らしく首を傾げた時を狙って押し倒すようにキスをすれば、下からくぐもった悲鳴が聞こえてきたが知ったこっちゃない。

誘ったのはそっちで、こちらは誘われただけだ。



「今日はキスだけだからなっ!」

「ああ。なるべく心掛けてはみる」



くぅ、と困ったような悔しいような顔をして綱吉は、それでも観念したかのようにスカルの首に腕を回した。




そして扉の前まで様子を伺いに行ったフゥ太は、自室への帰り道に思う。
倦怠期ってそもそも相手に飽きを感じたら起きる現象であってツナ兄たちのはちょっと違うと思うんだよね。だって飽きてないじゃんより求めてんじゃん馬鹿やろー、と。

詰まるところ2人は愛し合いすぎているのだ。
そりゃもう、呆れるくらいには。



「あーあ……マジでないわー」



もしかしたらランボよりも誰よりもこのバカップル(というか只の馬鹿だ)の被害を被ったフゥ太は、頬に何か生温いものが伝った気がしたが無視を決め込むことにしたらしい。








(だっていい加減、泣きたい程に腹立たしいハッピーエンドだったから)


呪いのような、愛と君の存在と、優しい光に包まれて―――――…





*fin*

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