□決戦開始
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客の数は例年に見ずそりゃもう凄いことになっていた。
綱吉が逃げようとした意図もつかめるってものだ。

物凄い黄色い歓声に包まれた6名の内3名は顔を歪めた。内1名は顔面蒼白である。
夏休みだから忘れていたが、そうだった。
こいつらの人気はとんでもないのだ。
つーかスカルのファンの目が怖いんですけど…!!
綱吉はビクビクとスカルの後ろに回ったが、それが更に女子達を煽った事に気付いていない。
こえーっマジこえーっ!



「さーて、始まりましたぁ!第5回バカップル選手権!皆さん盛り上がって行きましょう!」



司会進行の声がヤケに明るい。
まぁ当たり前だ。だってハルだもの。
だが4人にはそれが恨めしく思えた。
今は正直盛り上がれるような気分じゃない。
客がうるさすぎる。
リボーンからしてみればテメーらイベントを何だと思ってやがる、と4人に叱りたい気分ではあったけれど。



「はひーっ!凄い熱気ムンムンですぅ!それではお話を聞いていきましょう!左から順にいきますね!」



まずリボーンがマイクを向けられる。
次にビアンキ。
ぎゃー!だとか、うぉお!だとか…声援がすごい。



「お二人は三冠王なわけですけれども、今年の意気込みは!?」

「もちろん、勝つつもりでいるわ」

「リボーンちゃんは、他のお三方とオトモダチですよね!それについてはどう考えていますか?」

「まぁ、いい暇潰しにはなりそうだな、と」



クツリ、と笑うリボーンに4つの殺気が向けられた。
てめーこのやろう言わせておけば…!
やはりここらで鼻をポッキリさせておかねばならない男だ。



「そうですかぁ、ありがとうございますっ!んじゃー次コロネロちゃん達に参りましょう!2人はどう行った経緯で出会って恋に落ちたんでしょーかっ!?」



「恋に落ちた」の部分で、2人の顔がものっそい歪んだ。
歪んだが、根性で直す。
ここで脱落なんぞしていられない。
なんていったって、温泉がかかっている。



「幼馴染みで」

「そのままの成り行きだコラ」



成り行きとバッサリ言い切っているのだが、観客からは「ほぉぅ」だの「はぁ…」だの感嘆の声、というか溜め息が聞こえてきた。
後輩からしてみれば、憧れのカップルだろう。
故に一番応援が多いのだ。
青春の代名詞とは、彼等の事。



「はひー!青春ですぅ!それではコロネロちゃん、ラルさん、頑張って下さいねぇ!」



ハルもそれに異論はないのか、切り上げてスカルにマイクを向けた。



「こちらは何とニューフェイスです!」



いやいや、俺らも。
とラルとコロネロが呆気に取られていたが、噂というものは素晴らしいもので、学生の中ではコロネロとラルがデキている、という事で話が勝手に進んでいるので付き合っているのが当然だと思われていた。
何故今までこの大会に出ないのか疑問に思われていたくらいだ。



「スカルさんと、ツー子ちゃんの出会いはどういった形だったんでしょうか!?」



スカルが一瞬「ツー子」に反応して笑いそうになっていたが、綱吉から「お前、笑ったら、殺す」という若干殺気混じりの視線を感じて、頑張って押さえた。
今はスカルしか頼る人が居ないのに、そいつにまで笑われたとなったらいっそ死にたい気分だ。
というか、今この時点でもうすでに穴があったら入りたくなっている。



「たまたま、客で来て。一目惚れした」



無理がある。

会場に居た客が、満場一致で心の中で呟いた。
綱吉はどちらかというと、一目惚れよりは段々味を出していくタイプだ。
なので常に一緒に居て毒されたコロネロ達にしても、「一目惚れされるようなタイプではない」ことは重々承知の事実だった。
だから泳がせておけるのだ。
時々、そう。例えば跳ね馬みたいなのが引っ掛かってくるのだけれど。

綱吉は「あああ…スカルが俺の為に身を削ってくれている!」と感動しているが、スカルは別にどうだって構わなかった。
好きなのは本当のことだし。ただ、それを認めていないだけで。



「それで、ツー子さんにアタックした訳ですねぇ!ロマンチックですぅ!あ、でもでも、ツー子さんは隣町の子なんですよね!スカルさんからしてみれば、敵のマーケットがある隣町の子、っていうことで何か思う事があったりするのではないのでしょうか!?」

「敵だとか味方だとか関係ない。確かに業績を伸ばしている隣町は気に食わないが、コイツはコイツだからな」



ぎゃー!スカルかっこいー!と綱吉も一緒になって客と悶えている。
そんな恋人(仮)にスカルは心の中で溜め息をついた。
もうファンは「彼が決めた人なら仕方ないわね!」の領域に達している。
が。左から流れてくる3つの冷たい殺気に、スカルは泣きたくなった。
因みに審査員席からも1つ来た。

お願いだから綱吉にはそのままの態度で居て欲しい。
といっても甘い言葉が好きなので、綱吉が反応してしまうのはもう反射や本能、その類であるのだが。

そんな彼等の様子を見て、審査員席に座っていたマーモンがやれやれと首を振った。
馬鹿な奴らだ。
争奪戦じゃないんだから。これじゃあバカップル選手権にならないよ。



「むきゃあ!スカルさん、とてもツー子ちゃんのこと愛してらっしゃるんですね!ツー子ちゃんは、どうなんですか?!意気込みは!?」



いきなり自分にベクトルが向き、焦った綱吉は助けを求めてスカルの顔を見た。
スカルは大丈夫だ、という顔で頷いている。
綱吉は嫌な汗をかきつつも、スカルに従う事にした。
生憎、作戦は練ってある。



「あ、はい。わ、私も、好きで…す!…ので、頑張りたいと思います!」



カッチカチだ。
しかし「好きです」と言ったところでコロネロも固まっていた。
ラルとリボーンがそれを見て肩をすくめたのをマーモンは見逃さなかった。



「それではっ、三組を紹介し終えたところで!さっそく勝負に参りましょー!!」



うおー!と盛り上がる観客をよそに、綱吉は帰りたい気持ちで一杯だった。
多分、人生の山場な気がする。
やけに早い山場だ。
もしかしたら早死にするのかも。
そうだったら嫌だなぁ。



『ま、頑張らない程度にしてくれ。アンタは気張り過ぎると道から外れる恐れがあるからな』



控室から出る前、スカルが言ってくれた言葉を思い出す。
そうだ、程々にすればいい。
綱吉は一人納得してそう頷いた。



「俺からしてみれば気張ってくれた方がいいんだがな。そんな調子で優勝できるのか?ツー子」



ぽん、と後ろから肩を叩かれて綱吉は眉を潜めた。
リボーンだった。
今は何やらセッティング中の為、参加者は横にはけてろと言われている。
そんなグダグダ感。
さすがこの商店街だと思う。



「うっさいなぁ。絶対勝つよ」

「そうか?」

「そうだよ」

「じゃあ、もし――…」



リボーンに顎を掴まれて、グイっと首を回される。
グキっと嫌な音がした。



「ったいな、何?」



視界の中心には、コロネロがいた。
リボーンが綱吉の首を曲げてまで見せたかったものだ。
そしてリボーンは心底愉しそうに口を歪めると、綱吉の耳元に声を落としていく。
瞬間、それに気付いていたラルとマーモンが嫌そうに顔を歪めた。





「もし―――――……」




綱吉は瞳をパチクリと瞬かせ、おとなしくその声だけを拾っている。
まるで人形の様だ。
リボーンはクスリと微笑んで、綱吉の頬に唇を寄せた。
生憎客もコロネロも見ていなかった。

















「リボーン先輩、」



リボーンが綱吉を手放した後で、スカルがリボーンに話し掛ける。
あまり、客からは見えない位置で。
そして、綱吉とコロネロからも分からない程度に。



「あまり変な事吹き込まないで下さいね」



無表情のスカルが呟くように忠告すれば、リボーンはクク、と喉で笑った。
スカルはそこで、眉間に皺を寄せる。
嗚呼、本当にこの人は。



「どーせやるんだったら白黒ハッキリさせようぜ。どうせもう分かってんだろ、お前も」

「…俺は別に構いませんけどね。余りツナを追い込まないで下さいよ」

「コロネロはどうでもいいのか」

「はい。本当どうでもいいです」

「ククっ。あいつこれからどーすんだろうな?」



もしかしたら。
いや。
もしかしなくても。


運命というには薄すぎるそれは、とうに限界を越えて居たのかもしれない。



「おいコラツナ、」

「ツー子だよ」

「…ツー子」

「何?コロネロ」



ほわん、と笑った綱吉に違和感を覚えながらも、コロネロは綱吉の隣に立った。
ラルはそれを確認して、大きく溜め息をつく。
奴を馬鹿だと思うが、自分も馬鹿だと思う。
チラりと審査員席を伺えば、不機嫌そうに口をへの字に結んだバイパーが居る。
アイツも大概馬鹿だ。


「頑張ろうぜ、コラ」

「…うん!」



綱吉のはにかんだ笑みが、やけに可愛く思えて。
コロネロは少しだけ、眩暈を覚えた。

結局の所馬鹿しか居ない事実に、ラルとマーモンは決戦の準備が整うのを待つしかなかった。


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