前の夢

□円盤の中身
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袋の中身を見て、僕はため息をついた。
御狐神くんと2人で観るために借りて来たDVD。
でも、結局は僕の観たかった作品ばかり借りて来てしまった。
(御狐神くんはいつもこうだ。)
自分の観たい物、したい事を言ってはくれない。
全て僕の意思に従ってしまう。
(他は素直…っというか変質的…と言うべきか…。)
僕と一緒にいたいと我が儘は言えるのに、それ以外には全く欲がない。
(バランスが悪いことこの上ないな。)
もっと彼は欲を出すべきだ、僕の事以外で。
「…ちょっと…借り過ぎたか?」
一度に観るには多過ぎるDVDが袋には入っている。
あまりレンタルなんて行かないので、少し調子に乗って借りて来てしまった。
さっきまで御狐神くんと一緒に観ていたが、2本観るのが時間的にやっとだ。
「僕が観たいもの全てに御狐神くんを付き合わせるのも悪いし、少しずつ消化していくとするか。」
僕は袋に手を入れ、無造作に1枚のDVDを取り出した。
タイトルに目をやり、僕は首を傾げる。
「んっ?こんな作品を借りた覚えはないが…」
DVDのタイトルには『蝶とともに去りぬ』と書かれていた。
間違いなく僕の選んだDVDではない。
「店員が間違えて入れたのか?まぁ、せっかくだから観てみるか。案外面白いかもしれないし…」
多少の淡い期待を抱きながら、僕はDVDをプレーヤーに入れ、再生ボタンを押した。
シーンはどこかの駅なのだろう、ホームには随分と身長差のある男女がいる。
男は列車に乗り込み、女が別れを惜しむように男へ近付く。
よくある別れのシーンだ。
ただ、あまりよく見かけない光景も広がっていた。
「こ…これは………。」
見覚えがあるなんてもんじゃない。
ただし、僕はこの2人をこんな画面の、しかも物語の中では見た事がなかった。
長身の優男と黒髪の小柄な女。
僕の目が節穴でなければ、これは間違いなく僕と御狐神くんだ。
「ど、どういう事なんだ、コレは…」
僕の動揺をよそにストーリーが進展し、人物がアップで映し出された時、僕は言葉を失った。
「本当に行ってしまうのか、御狐神くん…。僕は御狐神くんが大好きなんだ。もう、御狐神くんがいない生活なんて考えられない…。好き…、大好き…、愛してるよ、御狐神くん…」
「僕もです、凜々蝶さま。でも、申し訳ありません…。」
「どうして!?あんなに…、あんなにおはようからおやすみまで甘く熱く愛し合った僕らが、何故別れなきゃいけないんだ!!」
「僕だって辛いのは同じです!!凜々蝶さまと離れて暮らすだなんて、まるでカレールーのかかっていないカレーライスのように味気ない生活になるに決まっています!!」
「それじゃ、ただのライスじゃないか!!なんで、なんでそうまでして別れを選ばなくてはいけないんだ!!」
「分かって下さい、凜々蝶さま…。例え、僕と凜々蝶さまの距離が地球とM78星雲くらい離れていようと、心はずっとお側におります…。」
「御狐神くん…。」
「必ず凜々蝶さまに相応しい男になって帰って来ます。そしたら…」
「そしたら………?」
そこで僕はテレビを大元のコンセントごと抜いて消した。
体中に鳥肌が立っている。
携帯を開き、アドレス帳から御狐神くんの名前を探すと、僕は電話をかけ始めた。
「もしもし御狐神くん?いますぐ来い。」
思わず命令形になった。
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