☆ 妖狐×僕SS

□素直
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『むむむむむむ…。』
「花様。もう10分以上経っています。最初の解法だけやりましょうか。」
『うーん、じゃあお願い。』


定期テスト4日前。
今日は見ての通り双熾くんに勉強を教えてもらっている。
今まで勉強を教えてもらったことは何度かあるが、彼はどんな問題もすらすらと解いてしまう。
だから塾などにはもちろん行かないし、家庭教師だって雇わない。
…まぁここに来る家庭教師がいるのかどうかすら怪しいけど。


そんなことを考えているうちに、あたしのノートには薄書きの数式が何列か並んでいた。


『へ〜、こういうやり方もあるんだ。』
「こちらの方が幾分楽かと。」
『ちょっとやってみる!』
「はい。」


って、本当は大して集中などできていない。
割合で言えば半々くらいだ。
だって…
双熾くんの顔が今にも触れそうなくらい、こんなに近くであたしのノートを覗いてるんだもん!


...


いやいや。


こんなこと考えてる暇はない!
彼のいるこの時間に分からない問題は全て片してしまわないと!


『双熾くん、じゃあこの問題は?解説もよく分からない…。』
「あぁ、これは…。」


双熾くんはまたシャーペンを持ち直してスラスラとグラフを書き、また数字を並べていく。


「つまり与えられている最初の式にここででた値を代入しているだけです。」
『あぁ、なるほど。』
「花様は理解がお早いようで。」
『嫌味?』
「いえ、まさか。」


双熾くんはいつものようにはにかんでシャーペンを机の上に置いた。
...あたしは、素直になれない。
こんなに双熾くんが傍にいてくれてるから、凄く嬉しいはずなのに、いつも可愛げのない言葉ばかり彼にぶつけてしまう。
こういう仲だから、こんなことを言えるのかもしれないけど、でも、あたしは...


『ねぇ、双熾くん。』
「はい。」
『素直になるにはどうしたらいいのかな?』
「おや、数学とは全く関係のないお話ですね。」
『この問題ができたらちゃんと数学やる。』
「...そうですか。ですが、それは簡単ですよ。」
『簡単?』
「はい。言えば良いのです。そのような質問が出てくるということはつまり、花様はもうすでに素直ということですよ。」
『え?』
「あとは言えばいいだけです。素直になれない人は、そのような質問すらできないでしょう。」
『そっ...か。』
「この際ですから、どうでしょう。告白してみてはいかがでしょう?」
『えっ...!?』
「ストレスが溜まる時期ですから。言えば幾分楽になれますよ。」
『双熾くん...』


双熾くんはあたしの手を取って、さぁ、と促した。
ど、どうしよう...。
いきなり告白なんて、双熾くんはあたしの気持ちに気がついて...っ


『あ、あたしは...。』
「ですが僕は既に存じております。」
『...!?(ゴクッ)』
「休憩をお取りになりたいのでしょう。」
『は?』
「素直に言ってくれれば良かったのですよ。勉強を休憩なしに1日中やりきるなど、なかなか難しいことです。」
『えっ...』
「少々お待ち下さい。今ココアをお持ちしましょう。」
『や、あの、そうじゃなくて...!』


あたしがハッとして振り返った時にはもう遅く、彼はすでに部屋を出ていた。
部屋に妙な気持ち悪い沈黙が漂う。


あたしが本当に言いたかったのはそういうことじゃなくて...。






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