☆ 妖狐×僕SS

□2人きりのお花見
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たまに家で1人の時、簡単なものは調理していたし、多少のお弁当のバリエーションはなんとなく浮かんでいたので、お弁当作りは順調に進んだ。
双熾くんも料理は身体に馴染んでいる様子で、その姿はまるで主夫だ。
…なんて!
何考えてんだあたしは!!


あたし達は無事作り終えた弁当とビニールシート、麦茶の入った水筒を屋上に持ち込んだ。
時間は丁度正午を回り、1時手前。
まだ朝ご飯を食べてからそこまで時間は経っていないが、何故か無償にお腹が空いている。
よく陽が当たる色とりどりの花々が咲く花壇の傍にビニールシートを敷いて、そこに重箱を置く。


『あ、思えば重箱でお弁当作っちゃったね。あたし達しかいないのに…。』
「そうですね。つい、みなさんのことも考えながらの量になってしまいました。」
『まぁいいか!』
「はい!僕は花様と一緒に厨房に立てただけでお腹いっぱいです!」
『…そりゃよかった。じゃ!いただきます!』
「はい。」


あたしは遠慮なしに正方形の蓋を開け、目を輝かせる。
一体どうやって調理したのか、どこかの業者に頼んだような大きな海老や美味しそうなちらし寿司、かまぼこ、ポテトサラダ、たこさんウインナー…
双熾くんが作ったであろう具は、どれも一級品だった。


『…つか、双熾くんは食べないの?こんなにおいひいのに!』
「いえ。そんな恐れ多い!
僕は花様がそうして僕に作らせて頂いたものを、美味しそうに口に入れるお姿を見ているだけでお腹が苦しくなります…!」
『え…。いやいや、冗談抜きでいつご飯食べてるの?』
「僕ですか?それは、ひっそりと、空いた時間に…。」
『駄目!こういう時くらい食べて!』
「なりません!そんなこほ…もぐ…。」
『ね、美味しいよ。』


あたしは無理矢理卵焼きを双熾くんの口に入れた。
双熾くんはこんなにも拒んでいたのにも関わらず、以外素直に卵焼きを受け入れた。
…むしろ、自分で貰いに行ったように見えた気がした。
のは、あたしの勘違いということにしよう。


『確かにあたし大食いだけど、さすがにこれ全部は食べられないからさ。双熾くんも食べて?』
「…。」
『それとも、あたしがせっかく作ったおにぎりをゴミにするつもり?』
「いえっ、まさかそんなことは…!」
『ねっ。』
「…はい。」


最後に彼は負けた、というような表情でニコっと笑い、やっと箸を取った。
もうちょっと、彼には素直になって欲しいな。とも思う。
だけど、そんな律儀な彼がまた、面白いとも思う。
…つまり。


『双熾くんって、変わってるよね。』
「そうですか?」
『うん、でも、面白いから、許すよ。』
「それは、ありがとうございます。」


彼はまた表情を崩して、水筒を取り、お茶を差し出した。
あたしはそのお茶を受け取り、しかし、それを飲むわけでもなく、少しそれを眺めていた。
刹那。
暖かい風がお茶の入ったコップの中に桜の花びらを運んできた。
桜の花びらはゆっくりとコップの中をふわふわと、何をするでもなく漂っている。


それを見て、彼はまた笑い新しいコップを取り出し、お茶を注ぐ。


あたしはまたその花びらに視線を落として何をするまでもなく…


彼はあたしの何なんだろう。と。


一言ぼやいて、ピンクの麦茶を口にした。








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