☆ 妖狐×僕SS
□眠れぬ夜
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「僕は…ここにいれば良いのですか?」
『うん!ここに居て!あたしが本当に眠ったら、それでいいから…。』
「分かりました。」
『あっ、でも、本、明かりつけて、読んでていいから…。』
「いいえ、そのようなことはできません!こうして、花様のお顔をこんなにお傍で見ていられるなんて、まるで夢のようです…。
こんな機会を逃すわけにはいけませんから。」
『あ…そうでしたか…。でも、本持ってきてたんじゃ…。』
「いいです、僕のことは気にしないで。さ、ベッドにお入り下さい。」
あたしは言われるがままに、真っ白のベッドに身をゆだねる。
双熾くんはリビングから持ってきたイスに座って、そばの明かりを消した。
不思議だな。
こんなに双熾くんに積極的になっちゃったのは、きっと初めてだ。
そんなことを考えつつ、あたしは少し緊張しながら目を閉じる。
きっと、今も、5分後も、30分後も、1時間後も、目を開ければ彼がいる。
悪い夢にうなされても、すぐそこに彼はいる。
また、温かいホットミルクを持ってきて…
刹那、彼の暖かい手が右手を包んだ。
いつの間にか瞼が重くなっていて、とても開けそうにない。
双熾くんは、今どんな顔をしてあたしを見ているのか、それすら分からない…。
ふと、身体がふっと宇宙に投げ出されたような感覚に陥る。
今背中に感じるふわふわなベッドや、彼の手の感覚は消えていって、ただただ温もりだけがあたしを包んでいく…。
あぁ、堕ちるのか、あたしは…。
1時間後。
「花様…。なんと可愛らしい…。」
今目の前でスースーと寝息をたてる彼女の白い肌が、カーテンの隙間から入る月の光を反射している。
それはとてもきれいで、まるで絵画を見ているような気分になった。
思わずその輪郭に指先を添える。
まだ、彼女は気持ちよさそうに寝息をたてている。
気付かれていない...。
途端に衝動に駆られ、体が勝手に彼女を求める。
僕は上半身を彼女の体の上に反らして、ベッドに両手をついた。
両手の中にすっぽりと埋まってしまう、美しい花様はまさに人形さながらであった。
こんなことをして許されるわけがない、そんなことは知っているのに...。
自分を、抑えられない。
「(ちゅっ...)」
「...!」
僕は花様の前髪をのけて、キスを、してしまった。
思わず自身の唇を手の甲で軽く抑えながら、ベッドから一歩距離を置く。
駄目だ、彼女と部屋に2人きりになった時点でこれは許されるべきことではなかった。
花様と一緒にいると、その度に自身のリミットが外されていくような気がしてならない。
「...。」
僕は急ぎ足で本を持ち、部屋を後にして書斎へ再び向かった。
まだ心臓はばくばくと脈を打っている。
あぁ...。
神様はなんて残酷なのでしょうか。
こんな想いを抱くくらいならば、僕は星にでもなっていればよかった。
僕はそんな叶わない戯言を脳内に巡らせながら、渡り廊下を照らす満月を見上げていた。
花様は、こんな僕をまだシークレットサービスとして雇って頂けるのでしょうか...。
僕はまだどこかで期待している。
彼女が僕の気持ちに気づいてくれることを...。
end.